2015-16シーズンはマイコプラズマ肺炎の当たり年?

11月初めにマイコプラズマ肺炎に罹ってしまい、1週間以上東京の拠点に籠りきりの生活をおくっていました。

 

マイコプラズマ肺炎というのは、肺炎マイコプラズマ菌によって惹き起こされる感染症で、本物の「肺炎」とは原因菌が異なります。

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症状としては、

 

「初発症状は発熱、全身倦怠、頭痛などである。咳は初発症状出現後3~5日から始まることが多く、当初は乾性の咳であるが、経過に従い咳は徐々に強くなり、解熱後も長く続く(3~4週間)」

 

「鼻炎症状は本疾患では典型的ではないが、幼児ではより頻繁に見られる。嗄声、耳痛、咽頭痛、消化器症状、そして胸痛は約25%で見られ、また、皮疹は報告により差があるが6~17%である。」

(いずれも、国立感染症研究所HPより)

 

ということなのですが、私も耳痛以外はすべてありました。特に咳はきつかったです。

 

「皮疹」とありますが、確かに本格的に発熱・咳の症状が出る1週間ほど前に手足にブツブツが出てきて、皮膚科を受診していたんですよね。

 

皮膚科ではその時、「虫刺されか、手足口病か、何ともわからない湿疹ですね。まあいずれにしても治療はステロイドになりますが」と言われていたのですが、おそらくマイコプラズマ肺炎の前触れの症状として出ていたのではないかなと、推察しています。

 

さて、このマイコプラズマ肺炎、昔は「オリンピック病」と呼ばれ、オリンピック開催年に流行を繰り返していた時期があるようですが、最近の流行は2011年・2012年の2年間でした。

 

それが、今年はまた流行り始めているようなのです。 

 ■「マイコプラズマ肺炎、全国で増加傾向- 感染研報告、前週比23%増」(CBNews)

   

東京都の流行状況の推移を見てみても、「当たり年」と言われた2011年・2012年と似たようなレベルまで上昇中。

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確かに、今年は周囲に「しつこい風邪が治らなくて困っている」という声がチラホラ。いや、それってマイコプラズマ肺炎かもよ、、、と突っ込みをいれたくなるような人もいます。

 

いずれにせよ、心当たりのある症状が出た方は、風邪だとタカをくくらないで医療機関を受診されてください。

 

診断は、喉の奥を拭っての簡易迅速検査がありますので、比較的簡単につきますし、治療もマクロライド系などの特定の種類の抗生剤が中心、とはっきりしていますので。

ベーコン・ソーセージは御法度なのか?〜WHOの衝撃的(?)な発表〜

加工肉を食べるとがんの発症リスクが高まるというニュースが、10月26日の晩から27日の朝にかけて、世界を駆け巡り、日本でも大きく取り上げられました。

 ■「加工肉摂取に『がんリスク』=毎日50グラムで18%増―WHO」時事通信

   

WHOという権威ある機関の発表のためか、国内外のニュース番組や新聞記事でも大騒ぎになっています。

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しかし、加工肉や赤身の肉が大腸がんの発症リスクを上げるという話は、過去の数々の研究で指摘されており、今回のWHOの発表はこれらの研究の成果を吟味しただけの話で、何か新しいデータが出てきたわけではありません。

 

過去の研究のまとめとして、例えば2008年時点で既に↓のようなものが出ています。

 ■”Processed meat and colorectal cancer: a review of epidemiologic and experimental evidence”「加工肉と大腸がん:疫学的・実験的エビデンスのレビュー」NCBI

   

この論文では、それまでに為された数々の研究の「レビューのレビュー」をしています。具体的には以下の3つの過去の研究をさらにまとめています。

 

・13本のコホート研究をまとめた2001年のSabdhuらのメタアナリシス(統合分析)

・18本の症例対象研究と6本のコホート研究をまとめた2002年のNoratらのメタアナリシス

・18本の前向き研究をまとめた2006年のLarssonらのメタアナリシス

 

相当のエビデンス量をカバーしているので、かなり信頼の置ける分析と言えましょう。

 

細かい点は省きますが、この2008年の時点で、

 

・加工肉の多食者は非摂取者と比べ、20-50%の範囲で大腸がんの罹患リスクが高い

・摂取グラム当たりのリスク増は、赤身の肉より加工肉の方が高い

 

ということが結論付けられています。

 

今回のWHOの発表は、そういう意味では目新しいものではないのですが、これだけ大きく取り上げられると、一般の方にとっては初めて耳にする話という方も多いかもしれませんね。

 

でどうするかという話ですが、個人的には摂りすぎないようにさえすれば、時々食べるのは別に良いのではと思っています。

 

煙草と違って他人に迷惑をかけるものでもありませんし、ソーセージエッグやアスパラベーコン巻きとか、やっぱり美味しいですからねえ…

 

がん診断後のアスピリン服用が消化器がん患者の生存期間を延長か

先回のメルマガで、「大腸がんの予防としてアスピリンの長期服薬が米国で推奨」というお話を紹介しましたが、今回もまたアスピリンの話です。 

 ■”Post diagnosis aspirin improves survival in all gastrointestinal cancers”「がん診断後のアスピリン服用が消化器がん患者の生存期間を延長」(The European CanCer Organisation (ECCO))

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オランダのFrouws医学博士らは、1998年から2011年の間の消化器がん患者14000名近くのデータを解析。

 

そのうち、30.5%ががん罹患以前からのアスピリン服用者、8.3%が罹患後のみのアスピリン服用者、61.1%が非服用者でした。

 

全体としての5年生存率は28%でしたが、性別、年齢、進行度、治療法などの条件を調整し、上記それぞれの群を比較してみたところ、、、

 

罹患後のアスピリン服用者は非服用者と比べ、生存率が「2倍」という結果が出ました。

 

今回のものは「後ろ向き」研究ですが、現在、オランダではアスピリン服用者とプラセボ服用者を比較する前向き試験が大腸がんで進行中で、さらに消化器がん全般で行なうことを考えているようです。

 

ちなみに、なぜアスピリンががんに効果があるのかについては、以下の仮説があるようです。

 

「血中循環腫瘍細胞(CTC)」と呼ばれる、原発巣から他臓器に転移する際に血中を移行するがん細胞があります。

 

このCTCは、血小板に身を包まれた形で血中を移動することで免疫システムの攻撃から逃れているのが、アスピリンにより血小板が溶かされて身が露出してしまって、免疫により排除されているのではないか、というものです。

 

現状はまだ仮説段階ですが、前述の前向き試験の結果が出てきたら、本当に効果があるかどうか決着がつくかと思います。

 

いずれにせよ、非常に安価かつそこまで副作用が厳しくない薬剤で一定の効果が期待できるのであれば、結果を待たずに試す医療機関も出てくるかもしれませんね。

大腸がんの予防としてアスピリンの長期服薬が米国で推奨

これまた古いお薬の話です。

 

鎮痛・解熱剤として一般に知られているアスピリンですが、血液を固まりにくくする働きもあるため、医療用医薬品としては、血栓や塞栓の治療にも広く用いられます。

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そのアスピリンを、米国疾病予防タスクフォースが、米国の主要な医学団体として初めてがんの予防薬としてガイドライン上で推奨しました。

 ■”In a First, Aspirin Is Recommended to Fight a Form of Cancer”「アスピリンが初めてがんに対抗する薬として推奨」(The New York Times

  

 

同タスクフォースが過去のエビデンスを解析した結果、低用量アスピリンを長期服用することが、心臓発作の発症リスクを22%下げるだけでなく、大腸がんによる死亡リスクも33%下げることがわかりました。

 

ちなみに、日本でもアスピリンの大腸がん発症予防効果についての研究がされています。

 

www.ncc.go.jp

国立がん研究センター

   

 

本研究では、大腸がんへ進行する可能性の高い大腸ポリープを切除した患者に低用量アスピリンを2年間投与、311名による無作為化比較試験で再発リスクを検証したところ、40%程度抑制する結果が得られました。

 

とはいえ、現時点では日本ではアスピリンによる大腸がんの予防投与が推奨されているわけではありませんし、保険適応もされていません。

 

また、米国の専門家たちも、本件については実はまだ意見が分かれているようです。

 

懸念の一つは、アスピリンの長期服用は、もちろんのことながらリスクフリーというわけではなく、胃出血のリスクは確実に上がり、非常にまれではありますが脳出血のリスクも上がることです。

 

もう一つは、アスピリンを服用することで安心してしまって、大腸内視鏡検査を受けない人が増えてしまうと、早期発見の機会を失って死亡リスクが上がってしまうというものです。

 

私は母方の祖父母ともに大腸がんに罹患しており、家系的にはリスクが高いのですが、それでも胃がすぐに荒れるアスピリンを毎日服用するのはちょっと躊躇いますね…

これはあまりの暴挙:1錠13.5ドルの薬が1晩で750ドルに!

抗がん剤が典型的なのですが、最近承認される医療用医薬品の価格はかなり「高騰」している印象があります。

 

高いと言っても、例えば、↓で書いたような画期的かつ社会的な価値もあるような薬であれば、まだ良いでしょう。

 

medicalinsight.hatenablog.com

  

  

しかし、これはちょっと容認できないよねという話が飛び出してきました。

 

 ■”Drug Goes From $13.50 a Tablet to $750, Overnight”「1錠13.5ドルの薬が1晩で750ドルに!」(The New York Times

  ow.ly/Sy5jO

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HIVの治療薬で標準治療として組み込まれている、Daraprimという薬( 日本では未承認)があります。

 

発売後62年(!)も経っているような非常に古い薬で、HIV以外にマラリアトキソプラズマ症などの感染症にも用いられます。

 

この薬の販売権をTuring Pharmaceuticalという米国の新興製薬会社が8月に取得したと思ったら、薬価を1夜にして1錠13.5ドルから750ドルと一気に50倍以上に値上げしてしまったというのです。

 

米国は日本と異なり、「自由薬価制度」、つまりメーカーが薬剤の価格を自由に決めることができます。今回は、まさにその弊害が出たと言わざるを得ません。

 

本件に関しては、関連する学会や患者会からも様々な形で非難・抗議の声が上がっていますし、民主党の大統領選候補、ヒラリー・クリントンさんも

 

“Price gouging like this in the specialty drug market is outrageous.  Tomorrow I’ll lay out a plan to take it on.”

「難病治療薬の市場でこの類の異常な薬価高騰は酷すぎる。明日にでも対策プランを出すわ」

 

ツイッター上で発言するなど、一気に社会問題化してきている様相。

 

Turiing社のShkreli社長というのはヘッジファンドのマネジャー出身で、今回の値上げについて、「ここで得られた利益を新たな薬の開発に回す」と言っているようですが、さすがにこれは「Greed(銭ゲバ)」と言われても仕方ないでしょうね。

「近藤誠医師と大場大医師の対決」で見逃されている決定的な”事実”

少し前の話になりますが、週刊文春の夏の特大号で、近藤誠医師と大場大医師が「”がん放置療法”は正しいのか?」というお題で「対決」しています。

 

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週刊新潮上での大場医師の「近藤批判」に対して近藤医師が反論。

 

「『手術をした方が寿命が延びる』、『時間と共に早期がんは大きくなり転移する』。そう主張するなら、大場さんはこれが事実であると証明するべき側に立っているんですよ。」

 

「手術する根拠やがん検診を受ける意味…。本来はみな、医者たちがエビデンスを示すべき事柄なんだけど、少なくとも早期発見の分野、あるいは固形がんの抗がん剤治療については何一つ証明されていないのが実態です。」

 

等々、「口撃」しつつ、自説を展開しています。

 

残念ながら大場医師の誌面上の反論は「医の倫理」や「医学会の通説」、そして「ご自身の臨床経験」に基づく話に終始しているため、近藤医師の「そもそも治療を正当化できるエビデンスはあるのか?」という攻撃に反撃しきれていない印象で終わってしまっています。

 

では、近藤医師が主張するように現代のがん医療は本当に意味が無いのでしょうか?

 

実は、はっきり決着がつけられるデータが存在します。

 

 ■「全がん協加盟施設の生存率共同調査 全がん協生存率」(全国がん(成人病)センター協議会)

  

「近藤理論」を当てはめれば、固形がんはどんなに小さい時に見つけても、「本物のがん」はすでに転移していて治療しても効果は無いし、転移していないものは「がんもどき」なので放置して大丈夫。結局、治療をする意味はないことになります。

 

ということは、「近藤理論」が正しければ、治療の方法がどう進歩しようが、同じステージ1(いわゆる「早期発見」の段階)で発見された患者さんの生存率は変わらないはずですが、実際はどうでしょうか。

 

上記のサイトから、「全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2014年9月集計)」 のデータを見てみましょう。全国29のがん専門診療施設の1997年から2004年までの24万診断症例をデータベース化したものですので、信頼度はかなり高いです。

 

同じ50歳代でステージ1*のがんを発症したとして、1997年に罹患した人と2005年に罹患した人との5年後の相対生存率(がんによる死を免れた率)は↓のようになります。

 

・胃がん 96.2% ⇒ 96.3%

・大腸がん 87.9% ⇒ 98.6%

・肺がん 80.6% ⇒ 88.4%

乳がん 96.5% ⇒ 99.9%

 

胃がんを除けば、この8年間で生存率が改善していることが見て取れます。

 

生存率で考えると大した改善に思えないかもしれませんが、死亡率で考えればそのインパクトもわかりやすい。

 

例えば、乳がんで言うと、1997年に発見された場合、5年以内に乳がんで命を落とされる方が1000人中35人はいたのが、2005年に発見された場合は1000人中たった1人のみという数字になるのです。

 

これは普通に読み取れば、術式の進歩や、新薬の登場、術後の抗がん剤治療の徹底といった、治療の進歩で説明できます。(早期胃がんについては、この8年間での治療の進歩は殆ど無かったとも言えます)

 

近藤誠センセイ、これでも早期固形がんの治療に意味はないのですかね?



*50歳代のステージ1のセグメントを選んだ理由は、以下の通り
1)余命の話なので同じ年代で比べないと正確性を欠く(年齢のセグメントでなく全体で比べてしまうと、年齢のミックスが異なる影響を受ける)
2)ある程度若くて合併疾患もまだそれほどない年代のため、普通に手術するであろうことが予想される
3)上記の条件をやはり満たす40歳代よりはn数が多い

 

酒は百薬の長ではない!?〜少量の飲酒でがんの罹患リスクが上昇〜

深酒は身体に良くないことは当然ですが、適量の飲酒はむしろ良く、「百薬の長」と考えられてきましたし、実際にそれを裏付けるようなデータも色々と出てきています。

 

しかし、そんな健全な吞ん兵衛さんにバッド・ニュースが入ってきました。

 

 ■”Light to moderate intake of alcohol, drinking patterns, and risk of cancer: results from two prospective US cohort studies”「少量から中等量の飲酒・パターンとがんの罹患リスク」(BMJ)

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米国で13万人以上の看護師を25年間追跡調査した、かなり大規模な研究です。

 

大量の飲酒がいくつかの種類のがんの発症リスクと相関しているのは既に知られているため、この研究では少量(1週間で日本酒2合くらいまで)から中等度の量(1週間で日本酒5合くらいまで、もしくは「やや多め」で10合くらいまで)の飲酒とがんの発症リスクの関係を調べるのが目的で始められました。

 

結果わかったことは、非飲酒者と比べ、すべてのがんの発症リスクが

 

・少量の飲酒者(男性):3%増

・中等量の飲酒者(男性):5%増

・やや多めの量の飲酒者(男性):6%増

・少量の飲酒者(女性):2%増

・中等量の飲酒者(女性):4%増

 

と、アルコール摂取が増えるとがんの罹患リスクも若干上がるという結果になりました。

 

上記は「すべてのがん」対象で、飲酒が関連すると考えられているがん種(大腸がん、女性の乳がん、口腔がん、咽頭がん、肝臓がん、食道がん)に限ると、例えば中等量の飲酒者(女性)で13%増と、もっと高い数字になります。

 

ただし、面白いことに、非喫煙者の男性の場合は飲酒によるがん罹患リスク増は無かったということです。(残念ながら女性の場合は喫煙の有無は関係なくリスクが増えるとのこと)

 

適量な飲酒は心不全脳卒中のリスクは下げるというデータも複数ありますので、禁酒した方が健康に良いとまで言えないと思いますが、がんに限って言えば「酒は百薬の長」とは言い難し、ですね…