読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

「1錠10万円」のお薬でも「安い」ワケ

ここ何年かで最も画期的と思える治療薬群が開発・発売されつつある領域が、C型肝炎です。

 

その新薬群の一つであるソバルディ(一般名:ソフォスビル)という薬剤が、米国で承認されたのは良いのですが、「高すぎる」ということで問題になっているようです。

 

“$1000 For One Pill Of New Hepatitis Drug Sparks Swift Reaction Of The Congress” <1錠1000ドル(約10万円)の肝炎の新薬に下院が即座に反応>

f:id:healthsolutions:20110329130638j:plain

確かに、1錠1000ドルと聞くと、「うわっ、高い」となるでしょう。しかも12週間の服薬が必要ですから、合計で8万4千ドル(約840万円)かかります。例えばこの薬が日本で同じ程度の薬価が将来ついたとして、やはり「高すぎる」のでしょうか。

 

C型肝炎は放置しておくと、20-30年という時間の経過と共に肝硬変や肝臓がんに移行してしまう可能性がかなりあります。

 

従って、肝硬変や肝臓がんに移行する前に治療介入を考慮するわけですが、その中心はインターフェロンです。リパビリンという薬との併用が標準的な治療で、1年程度の投与前提で薬剤費として日本では年間250万円程度はかかります(日本人で一番多い「1b型高ウィルス量」を想定)。

 

ただ残念ながら、著効(ウィルスが消失する)率が45−50%程度とそこまで高くない上に、副作用もインフルエンザ様症状、白血球/血小板減少、脱毛が必発で、溶血性貧血、消化器症状、皮疹もかなりあるなど、かなり「しんどい」治療です。

 

そんな中で、上記のインターフェロン+リハビリンに上乗せすることで著効率を80%程度に向上する薬が出てくるようになり、さらにインターフェロンやリハビリンを使わない単独の治療で著効率90%程度を見込める薬剤が複数開発中で、ソバルディはその一つです。

 

 

 

この薬により期待できる便益は

A:旧来の肝炎治療で必要だった医療費の節減

B:旧来の治療で治らずに肝硬変や肝臓がんに進行してしまう場合に必要な医療費の節減

C:旧来の肝炎治療、肝硬変/肝臓がん治療や副作用で休まざるを得ない人にとっての機会費用

D:同じく旧来の治療で治らずに最終的に落とされていた命の救済

 

の4つです。

 

Aは300万円程度。前述のように薬剤費で250万円程度かかるのに加え、導入時は通常入院が必要です。

 

Bは200万円程度。追加のインターフェロンで250万円程度。肝臓がんの治療(肝動脈塞栓療法を選択した場合)で160万円程度。進行する確率は約50%とします。高額な分子標的薬も再発/進行したら使われていくでしょうから、実際はもっと高くなりそうではあります。

 

A、B足し合わせただけで500万円とかなりの線まできました。

 

そして、CとDの価値は定量化がかなり難しいのですが、生きていたはずの期間や、元気に生活をできたはずの期間が5年とか10年とかの単位であることを考えれば、あと300万円強のコストというのは、まず小さいと言えるでしょう。

 

ちなみにもう一つの完治の手段として「肝移植」がありますが、これは1000万円級の費用がかかってきますし、当然ながらリスクも高いです。

 

そう考えていくと、1錠10万円でも「安い」薬だと思いますし、米国の下院もこれで問題にするくらいなら、もっと問題にしなければならない薬が他にたくさんあるでしょうと言いたいですね。

 

<注記1>ソバルディは日本では未承認の薬剤です。筆者は本薬剤の製造メーカーであるギリアード社や関連薬剤の製造メーカーとと何ら金銭的関係を有しません

 

<注記2>本内容を作成する上で、以下の2つのサイトの内容を参考にしました。

・「C型肝炎治療の手引き」(札幌厚生病院第三消化器科)

  http://www.dou-kouseiren.com/byouin/sapporo/guide/section/vt1bv7000000eh20-att/vt1bv7000000eh4r.pdf

・「がん治療費.com」

  http://www.ganchiryohi.com/index.html

 

<注記3>この項目での「費用」は国としての観点で語っています。実際の患者さんの支払いは肝移植を除いては医療保険が利きますし、高額療養費制度の対象にもなり得るので、ずっと少ないものになります。