”1000”の大台突破:イシュラン昨年末からここまでの振り返り

ちょっと久しぶりに、乳がんの病院・名医ガイド「イシュラン」の拡充状況をご報告します。

 

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・カバー都道府県が12、掲載医師数も1,167人に!

昨年12月初めの時点では愛媛県のみだったのが、現在は、東京・千葉・京都・大阪・兵庫・岡山・広島・香川・徳島・高知・愛媛・鹿児島、と12都府県にまで拡がりました。

これにともない、掲載病医院数は435施設、医師数は1,167人にまで増えました。

 

・サイトアクセス数も5倍以上に!

アクセス数(セッション数)は、昨年12月時点では1日にせいぜい100程度だったものが、7月には500を超える日も出てくるようになりました。

 

・医師コミュニケーション・タイプが大人気

「学究型」「リーダー型」「聴き役型」「話し好き型」の4類型に分けている「医師コミュニケーション・タイプ」への投票が好調です。3月に投票時のログインを不要にしたところ一気に投票数が増え、今月に入り累計の投票数がついに1000を超えました!

 

投票数ベスト3の先生はこちら。

 

 第1位:飯島 耕太郎 先生 →25票

 (東京 順天堂大学医学部附属順天堂医院 乳腺科)

 第2位:北川 大 先生 → 18票

 (東京 公益財団法人 がん研究会 有明病院 乳腺センター)

 第3位:三浦 大周先生 → 15票

 (東京 虎の門病院 乳腺・内分泌外科)

 

第1位の飯島先生からいただいた言葉です。

 

「一番投票数が多かったとは嬉しいですね。僕はまず患者さんの話を聴くことを徹底しています。一回目は時間をかけてともかく話を聴くだけにして、治療方針の話はあえてしません。じゃあどうしましょうという話は次回来てもらった時にします。」

 

昨年末から上半期までの振り返り(少し数字は旧いです)を、↓でスライドにまとめていますので、PowerPointで入手されたいという方は、こちらからご自由にどうぞ。

 

 ■「イシュランニュース 2015年上半期」

  

全国制覇に向けてさらにギアを上げていきますので、今後の進展にもどうぞご期待下さい!

“Shared Decision Making”〜がん治療の選択スタイルが変化する〜

前回のメルマガでASCO(米国臨床腫瘍学会)の話題をお届けしましたが、今年のASCOで「免疫チェックポイント阻害剤」と共に大きなテーマとして取り上げられたのが、「Value」のコンセプトです。

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いきなり、「Value」と言われても何のことだかわかりにくいですね。

 

大雑把に言うと、その治療で見込める「効果」から「副作用」を差し引いた価値が、治療にかかる費用と見比べてどうか、というのが「Value」の考え方です。

 

ASCOは、この「Value」の概念を、医師と患者で行なう治療方針の決定の場に持ち込むべきと考えています。その理由は大きく2つあります。

 

1つは、「がん治療にかかるコストが格段に高額になってきたこと」です。

 

このメルマガでも何度か取り上げているように、昨今の分子標的薬は年間のコストが数百万円レベルですし、最近では1000万円を超えるような超高額の抗がん剤まで出てくるようになりました。

 

医療保険のカバーが限定的な米国だと、「がん治療費で破産」ということも現実としてあり得ます。

 

そうなると、「Financial Toxicity(財務毒性)」という言葉まででてきている通り、経済面での負担は、治療選択の上で無視し得なくなって来ているというわけです。

 

もう1点は、医師と患者との間での治療方針の決定方法が、「Shared Decision Making(共同意思決定)」のスタイルに変わりつつあるということです。

 

患者さんにとって、同じ副作用でもまったく違う意味を持ってきます。

 

たとえば、「手足のしびれ」は楽器の演奏を生き甲斐や生業にしている人にとって、そうでない人と比べたら重大さが異なります。

 

「脱毛」もそうですね。ある人にとっては、命が助かる確率が上がるのであればなんてことない人もいれば、死ぬほど嫌という人もいるでしょう。

 

上述した経済面での事情も、当然患者さん個々によって変わってきます。

 

そんな患者さん個々の嗜好や生活の事情に合わせた形で、その時ベストと考えられる治療方法を医療者と患者が共に選択していくスタイルが、「Shared Decision Making(共同意思決定)」です。

 

ASCOが「Value」を推し進めるということは、今後「Shared Decision Making(共同意思決定)」が治療意思決定スタイルの本流になっていくということです。

 

今の日本ではIC(Informed Consent)、つまり「治療内容の説明をして患者さんの同意を取り付ける」スタイルがまだ主流ですが、それだと患者さん個々の思いや事情が反映された治療になるとは限りません。

 

日本でも「Shared Decision Making(共同意思決定)」のスタイルが普及するよう、私も後押して参ります。

【ASCO特別版】 抗がん剤治療に革命が始まった〜免疫療法時代の幕開け〜

今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)は「免疫療法(Immunotherapy)時代の幕開け」を強く感じさせる大会でした。

 

会の副題が”Illumination & Innovation”(「解明」と「革新」)だったことでも明らかなように、革新的な”ホンモノの免疫療法”についての演題ががん種を問わずずらりと並び、世界中から集まった医師たちの「熱気」を感じ取ることができました。

 

今週のメルマガは「特別版」としてASCOで仕入れた最新情報を、わかりやすくお伝えします。

 

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<”ホンモノの免疫療法”って何?〜免疫チェックポイント阻害剤の仕組み〜>

 

ヒトの身体には「免疫機能」が備わっています。すなわち、細菌やウィルスなど「異物」が入り込んだとき、私たちの免疫機能が働いて異物を攻撃し、破壊してくれるのです。

 

がん細胞も例外ではなく、我々の身体の中では毎日のようにがん細胞ができると免疫機能が「異物」と認識して排除してくれているので、簡単にはがんに罹らないですんでいるわけです。

 

免疫機能の主軸の一つが、細胞障害性T細胞(キラーT細胞)と呼ばれる免疫細胞です。

 

www.youtube.com

YouTube

  

 

詳細は端折りますが、ヘルパーT細胞と呼ばれる別の種類の免疫細胞が身体の中に異物となる細胞を認識すると、「こんな悪者がいますぜ」と照合写真付きでキラーT細胞に情報を渡す。するとキラーT細胞が目覚めて「悪者」を探し、見つけ次第動画にあるように攻撃を加えます。

 

ところが、がん細胞は巧妙にもPD-L1と呼ばれる物質を表面に出して、近づいてきたキラーT細胞の表面にあるPD-1と呼ばれる物質に結びついてしまいます。

 

そうすると、せっかく目覚めていたキラーT細胞に「おやすみスイッチ」が入ってしまい、おとなしくなってしまうのです。

 

逆に言えば、このPD-L1とPD-1の結合を妨げてしまえば、キラーT細胞が本来の攻撃力を発揮できるようになるわけです。T細胞側のPD-1を塞いでしまうのがPD-1阻害剤、腫瘍細胞側のPD-L1を塞いでしまうのがPD-L1阻害剤になります。

 

PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、そして別の種類のスイッチを防ぐCTLA-4阻害剤など、免疫機能のスイッチがオフになるのを防ぐ薬剤を「免疫チェックポイント阻害剤」と呼びます。

 

日本でがんの免疫療法というと、樹状細胞ワクチン療法やらNK細胞療法など、治験で有効性や安全性がまったく確認されていない「えせ免疫療法」の方が目立っていますが、どうかこれらと混同しないようにしてください。

 

 

 

<効果があってなおかつ副作用が少ない>

 

抗がん剤といえば、効果はそこそこあったとしても副作用もかなりあるのが相場でした。

 

また、新薬のほとんどは、プラセボ(偽薬)との比較や、既存の治療薬に”上乗せ”した形で効果を確認して世の中に出て来ているケースがほとんどで、既存の標準的な治療薬とガチンコでいきなり勝負(比較)して出てくるということはまずありませんでした。

 

ところが、免疫チェックポイント阻害剤は、既存の標準治療とのガチンコ勝負で効果も安全性も「圧勝」しはじめているのです。

 

 今回のASCOで数多く発表された免疫チェックポイント阻害剤の最新治験データの中から、一番インパクトの大きそうな、非小細胞肺がんでのPD-1阻害剤ニボルマブの治験データをご紹介します。 

 ■”Nivolumab Considered Practice Changing in Refractory, Advanced Nonsquamous NSCLC”「ニボルマブが進行非小細胞肺がん(非扁平上皮がん)の治療体系を変える」(ASCO Daily News)

   

フェーズ3の治験で、プラチナ製剤で既に治療された患者582名を、ニボルマブ投与群と現在の標準治療であるドセタキセル投与群の2群に分けて治療、比較したところ、全生存期間(OS)の中央値で、12.2ヶ月vs 9.4ヶ月と、有意差ありでニボルマブに軍配が上がりました。

 

特筆すべき点が2つあります。

 

1つめは、PD-L1が発現しているがん細胞が1%以上ある場合の全生存期間は17.2ヶ月と、ドセタキセル群の倍程度あること。1%未満の場合は、効果面での有意差は無いので、このPD-L1の有無が薬の効果を予測する因子になり得るということです。

 

2つめが、グレード3以上の重篤な副作用の発症率が10%vs54%と、ニボルマブ群が圧倒的に少ないことです。 この10%というのは、抗がん剤としては衝撃的に少ない数値で、患者さんにとっては間違いなく福音と言えます。

 

 

 

 

<今後の展開と課題>

 

免疫チェックポイント阻害剤の今後の展開で注目すべきは、「広範囲のがん種への適応拡大」、「”組み合わせ”による期待効果の上昇」、「価格問題」の3つです。

 

まず、「広範囲のがん種への適応拡大」ですが、前出の肺がん以外でも、肝臓がん、膀胱がん、腎がん、悪性リンパ腫などで免疫チェックポイント阻害剤の治験が次々に進んでおり、いずれも極めてポジティブな結果が出つつあります。

 

際立った遺伝子変異が一つあるようなタイプのがんよりも、色々な遺伝子変異が発現している”複雑な”(逆に言えば現状臨床成績がよろしくない)がんに向いているらしいのです。

 

ちなみに、乳がんではトリプルネガティブで有望と考えられていますが、ともかくも迅速な適応拡大が期待されます。

 

次に、「”組み合わせ”による期待効果の上昇」ですが、免疫チェックポイント阻害剤同士の併用、化学療法や分子標的薬との併用、さらにはがんワクチンとの併用など、今後様々な使い方でより効果の出る方法が模索されることになりそうです。

 

今回のASCOでは、悪性黒色腫でのCTLA-4阻害剤(イプリブマブ)とPD-1阻害剤(ニボルマブ)の併用の治験結果が発表されました。

 

イプリブマブ単剤群、ニボルマブ単剤群、イプリムマブ+ニボルマブ併用群の3群で比較したところ、全生存期間(OS)のデータは未だ出て来ていないものの、無増悪生存期間(PFS)では、2.9ヶ月vs6.9ヶ月vs11.5ヶ月と、併用群がベストの結果。

 

ただし、Grade3以上の重篤な副作用も、27%vs16%vs55%、と併用するとぐっと増えることがわかり、組み合わせで使う時は単剤の時とは異なる注意が必要になるかもしれません。

 

最後に「価格問題」です。

 

以前のエントリー「Vol.30 「ホンモノの免疫療法」の登場:PD-1阻害剤」 でも書きましたが、このクラスの薬剤の年間薬剤費は1500万円を超えます。

 

今後、適応が広がって投与される患者さんの数が10万人くらいになったとします(この程度は余裕であり得る数字)。すると、それだけで薬剤費は年間1.5兆円と莫大な金額となり、他の薬剤費を削りでもしない限り、厳しい保険財政の中で賄うことはまず無理でしょう。

 

ましてや、前述の「免疫チェックポイント阻害剤の併用」などしようものなら、とんでもないコストになります。

 

ASCOでもこの問題は非常に真剣かつ深刻に受け止められており、「Value(価値)」というのが今年のもう一つのテーマでした。

 

その薬剤が、本当に価格に見合うだけの価値が提供できているのか、厳しく問われる時代になってきていることは間違いありません。

ご褒美は先に上げた方が効く〜禁煙に最良の効果をもたらすインセンティブ〜

前号に続き、禁煙関連の話題です。

 

ちょっと面白い報告がありました。

 

ow.ly

(TIME、元ネタNEJM)

   

 

CVSケアマークという会社の社員2000名以上を使っての、禁煙の試験です。

 

被験者を「報奨金を先にもらい禁煙に失敗したら返還する」群(A群)、「禁煙に成功したら初めて報奨金をもらえる」群(B群)、「禁煙補助のための治療が無料で受けられる」群(C群)、など、5種類のインセンティブ群に分け、禁煙にトライしてもらいます。

 

すると、A群の禁煙成功率は、B群の2倍そしてC群の5倍と、圧倒的に高かったという結果となりました。(残りの2群のサポート内容と結果はこの記事からはよくわかりません)

 

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途中つらくなってきたところで止めても、B群やC群の被験者にとっては何も”被害”は発生しないけれど、A群だとあたかもお金を払わされるかのような気分になるからなのでしょうね。

 

おそらく、金額が高くなればなるほど差が大きくなるのではないかと思います。

 

この話、他にも応用が利きそうです。たとえば、ダイエット。

 

ダイエットは「うまくいったら、XXのご褒美」という立て付けでモチベーションを高めるケースが多いように思いますが、「先もらいするけど成功しなかったら返還/返金」というご褒美を周囲の人にお願いする方がもっと効果的かもしれません。

 

また、スポーツクラブの無料券をもらう、というのは全然効果的なやり方ではない、ということなのでしょうね。

 

ダイエットしたいのだけれども、何度やってもうまくいかないという方、一度これをヒントに「先もらい賞金方式」を試されてみてはいかがでしょうか。

 

長尾和宏先生、どうしちゃったんですか?:「再発・転移をする人としない人の差」

長尾和宏先生と言えば、がん医療界では「反近藤誠」の論客として有名な方です。

 

shukan.bunshun.jp

週刊文春WEB)

    

当時は近藤医師に対するわかり易い反論を好意的に拝見していましたが、最近どうも怪しい論調が目立つようになり、「長尾先生、あなたもですか」と言いたくなるような状況になってきました。

 

酷いなと思ったのはこの記事です。

apital.asahi.com

朝日新聞医療サイト「apital」)

   

「長尾先生から見て、どんな人が再発・転移しやすいかどうか、何か特徴はありますか?」という読者からの質問に対し、長尾先生は↓のような話を書いています。

 

>>

  私は、手術直後にはがん細胞はどこかに少し残っているものだと思っています。

  しかし自然免疫の力でリンパ球ががん細胞をやっつけてくれるものだと思います。

 

  ですから、再発するはずなのにしない、ということが実際にあります。

  従って再発させないための食事やライフスタイルはある、と思います。

 

  手術後に怒ってばかりの人は、よく再発しました。

  反対に、笑ってばかりの人は、再発しませんでした。

 

  個人的には、ミネラル豊富な野菜を食べると免疫能が上がると思います。

  土の中に埋まっている野菜、大根や人参やお芋さんなどを勧めています。

 

  京野菜のような高価な野菜を食べなさい。

  野菜だけにはお金をかけなさい、と毎日、口癖のように言っています。

>>

 

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うーん、ここまでノーエビデンスで「思います」自説をずらずらと展開されてしまうと、もう頭を抱えざるを得ません。

 

乳がんの患者さんにとって、再発リスクに関して注意すべきことは、「肥満」と「脂肪」です。

2つほど論拠をご紹介します。

  ■”Weight, Weight Gain, and Survival After Breast Cancer Diagnosis”乳がん診断後の体重、体重増と生存率」(ASCO)

   

5204人の患者を24年間追跡調査した結果、非喫煙者に限ってですが、乳がんでの死亡リスクは体重を維持していた群と比べ、体重微増群(中央値3kg弱程度)で35%増、体重激増群(中央値8kg弱)で64%増という結果でした。

 

  ■”Dietary Fat Reduction and Breast Cancer Outcome: Interim Efficacy Results From the Women's Intervention Nutrition Study”「脂肪摂取減と乳がん患者のアウトカム:栄養摂取介入研究の中間解析結果」(JNCI)

   

2407人の被験者を食生活介入群と非介入群に分け、介入の予算が尽きた時点(中央値で5年経過)で中間解析しています。

 

すると、再発の比率は介入群で9.8%だったのに対し、非介入群は12.4%。つまり、介入したことで再発リスクを24%下げたということになります。

 

脂肪摂取量が介入群は33.3g/日に対し非介入群は51.3g/日。体重は介入群の方が3kg弱軽くなっていたことを考えると、やはり「肥満」と「脂肪」が再発リスクに関与している可能性は高そうです。

 

よりヘルシーな食事を心がけるのは体重や体脂肪管理に必要ですけれど、何も高価な京野菜まで揃える必要はなさそうです。

 

近藤誠医師もそうですが、極論を断定的に語ると耳目を魅き付ける効果があります。最初は良心で始めていたものが次第に「ウケ狙い」を重んじるようになり、最後は「教祖化」してくるのですね。

 

そういう意味で、「反近藤誠」で一世を風靡した長尾医師も、結局は近藤医師と同じような道に進みつつあるという、何ともやるせない状況です...

 

日経ビジネスも信用なりません⇒「なぜ関空に世界のがん患者が集まるか」

日経ビジネスからまたもや”怪しい”記事が出てきました。

 

  ■

business.nikkeibp.co.jp

日経ビジネスオンライン

   

 

この記事、ゲートタワーIGTクリニックなる医院の院長、堀信一医師のインタビューで成り立っています。

 

がん治療周辺の話はかなり詳しいはずの私も聞いたことの無い施設で、「???」とクエスチョンマークが頭を飛び交いながら熟読しましたが、実に酷い内容の記事でした。

 

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この施設で集中的に行なわれているのが、「血管塞栓によるがん治療」。

 

「血管塞栓によるがん治療は、手術のできない末期の方の救いになる治療法というイメージがありますが、どのようながんに向いているのでしょうか? また、どのような症状の方に向いているのでしょうか?」

 

という問い(そもそもこの問い自体、”末期の方の救いになる治療法というイメージ”なんていう極めてバイアスがかかった質問ですね)に対し、

 

「部位別にいうと、乳がん、肺がん、肝臓がんなどを得意としています。このほかに、卵巣がん、子宮がんなども血管内治療に向いています。最近では、胃がんの治療成績が上がっています。」

 

なんていう回答になっているのですが、上がっているという「治療成績」はこの記事にも、IGTクリニックのHPにも見当たりません。

 

堀先生の業績なるものを眺めてみても、どこそこで講演したというような話はやたらと入っていますが、きちんとした論文は見当たりません。(まっとうな科学者であれば、論文以外のものを「業績」とは呼びません)

  ■業績集(IGTクリニックHP) 

 

ちなみに、血管(動脈)塞栓術というのは、肝臓がんの治療としては日本では標準治療の一部ですが、乳がんなど他のがんでは標準治療ではありませんし、そうした治療をしているという話はまっとうな医療機関ではまず聞きません。

 

調べてみると、聖マリアンナ医科大学で投与実績がありました。 

  ■乳癌動注療法聖マリアンナ医科大学放射線医学HP)

 

>>

 皮下埋め込み型リザーバー鎖骨下動注化学療法は、全身への抗がん剤投与が困難な患者様、または全身化学療法では効果が得られない患者様に対して効果が期待できる新しい治療法です。当施設では、本法の安全性と有効性を確認するために、現在臨床試験を実施しております。

>>

 

そうです。聖マリアンナ医科大学でも「臨床試験を実施」してその有効性や安全性があるかどうかを確認している段階なのです。

 

まっとうな臨床試験すら実施していないようなエビデンスの無い保険外の治療法を、広告まがいの記事でデカデカと掲載してしまうというのは、きわめて由々しき事態。

 

日経ビジネス、本当にどうしちゃったんでしょうね…

不可能を可能にする:脊椎の転移巣を取り除く金沢大の驚きの術式

泌尿器科学会のランチョンセミナーで腎がんの脊椎転移の手術について、金沢大学整形外科学・村上英樹准教授の非常に興味深い話を聴くことができました。

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脊椎、つまり背骨への転移は、腎がんだけではなく、乳がんや前立腺がんなど他のがん種でも発症します。不思議なことに他のがんでは放射線治療が有効ですが、腎がんはあまり効かないらしいのです。

 

とはいえ、脊椎に転移してしまうと、痛みと麻痺でADL(身体の活動性)が大きく損なわれてしまい、予後も芳しくありません。

 

なのでできれば転移巣を取り除く手術をしたいところですが、これがかなり高難度。というのも、背骨の真ん中には孔があって、その中に傷つけてはいけない神経の束が縦に走っているからです。

 

旧来の手術は、背骨に孔を開けて腫瘍部分を「引っ掻き出す」やり方くらいしかできませんでした。

 

でも当たり前ですが、そんなやり方では腫瘍を綺麗に取り除くことができませんし、引っ掻くことでむしろがん細胞を周囲に広げてしまうため、治療成績も上がりません。

 

そこにまったく新しい術式「腫瘍脊椎骨全摘術」が登場します。 

  ■「CLOSE UP NOW! 世界が驚愕した高度先進医療を展開し、最後の砦として、最高・最善の治療に挑む」(金沢大学附属病院整形外科ホームページ)

    

真ん中の神経を傷つけないように、糸のこぎり(!)を背骨の内部に通して外側に向かって切り出す、というやり方なのだそうです。(上下2カ所で半周ずつ切ってパカっと切り出すイメージですね)

 

そして、切り出した腫瘍骨は、冷凍してがん細胞を完全に死滅させてから元に戻す。自己組織を使うことで早期の修復が可能になる、と。

 

術後の成績も極めて良好で、まったく脚を動かせなくなってしまったような患者さんが元気に普通に歩けるようになり、何年も元気に過ごされているという症例が何件も出てきているようです。

 

よく整形外科は「大工」に喩えられるのですが、いやはやこれはたしかに「名工」の仕事です。

 

ちなみに、腎がんの場合は一度放射線を当ててしまうと、後々手術で切開した場合に傷口がぱかっと開いたまま閉じなくなってしまうリスクがあるらしく、「どうか放射線治療はしないままで紹介してください」と村上先生は強調されていました。

 

この新たな術式、最初は金沢大学だけでしかできなかったようですが、今では全国でも数カ所の病院で同じ治療が受けられるようになってきているとのこと。

 

外科医というと最近、千葉県がんセンターや群馬大病院などネガティブなニュースが流れていますが、こうした素晴らしい仕事をされている医師もいるのだということも是非知って頂きたいと思います。