”「医療世界一」は国際比較してみたら日本だった”に、ちょっと待った
↓の記事が先週、私の周辺でバズっていました。
国際間の医療水準の比較方法は色々あると思いますが、そもそも日本は「世界一の長寿国」なわけですから、そう悪いレベルであるはずはありません。
なので、記事の冒頭に出てくる、
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日本人ほど自国の医療に不信感を持っている国民はいない。2010年にロイター通信が報じた「医療制度に関する満足度調査」によると、日本人の医療満足度は15%で、これは世界の先進・新興22ヵ国中、最下位である。
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に対して、「そんな言うほどひどくはないでしょう」というのは、まあ約束された結論です。
でも、題名にあるような安易な「医療世界一」論にはちょっと待ったです。
筆者の真野先生は、各がん種の5年生存率をOECDの統計データと、国際共同研究「CONCORD-2」のデータを駆使して、国際比較しています。
記事内で触れられている数字/表現を整理してみると、、、
・大腸がん:68%と世界1位。加盟国平均は59.9%(根拠:OECDデータ)
・肺がん:30.1%と際立った世界1位。アメリカ18.7%、イギリスは9.6%(根拠:CONCORD-2)
・肝がん:27.0%と相当に優れた水準。アメリカ15.2%、欧州各国20%未満(同上)
・胃がん:54.0%とかなりの高水準。韓国57.9%とトップ。欧米は30%前後(同上)
・乳がん:87.3%とアメリカに次いで世界2位(根拠:OECDデータ)
・子宮頸がん:70.2%で世界4位と健闘(同上)
ふーむ、なんでわざわざ2つのデータを使うんでしょう?ちょっと気になったので、元データにあたってみました。
OECDのデータは↓が元データと思われるのですが、なるほど、肺がん、肝がん、胃がんの数字が見当たりません。
■”Assuring Quality to Improve Survival” (OECD Library)
しかし、「CONCORD-2」の方は、↓が元データで、上記のがん種はすべてデータが揃っています。
http://www.thelancet.com/action/showFullTableImage?tableId=tbl4&pii=S0140673614620389
真野先生の分析に欠けている、大腸がん、乳がん、子宮頸がんの3つのがん種のCONCORD-2の5年生存率データをアメリカ、カナダ、ドイツ、イギリス、韓国、日本で比較してみると(いずれも%)、、、
・大腸がん:アメリカ64.7 カナダ62.8 ドイツ64.6 イギリス53.8 韓国66.0 日本64.4
・乳がん:アメリカ 88.6 カナダ 85.8 ドイツ 85.3 イギリス 81.1 韓国 82.7 日本 84.7
・子宮頸がん:アメリカ 62.8 カナダ 66.8 ドイツ 64.9 イギリス 60.2 韓国 77.1 日本 66.3
あれ???
大腸がんの「世界1位」、乳がんの「世界2位」といった勇ましい数字は、ここからは伺えません。
これでは、都合の良いところだけデータを”つまみ食い”したと言われても仕方ない。
日本が他の先進国と比べて同等以上の医療を提供できているというのは、CONCORD-2のデータからだけでもきちんと言えるのですから、変なデータの使い方をしてミスリードするのはやめて頂きたいものです。