これはあまりの暴挙:1錠13.5ドルの薬が1晩で750ドルに!

抗がん剤が典型的なのですが、最近承認される医療用医薬品の価格はかなり「高騰」している印象があります。

 

高いと言っても、例えば、↓で書いたような画期的かつ社会的な価値もあるような薬であれば、まだ良いでしょう。

 

medicalinsight.hatenablog.com

  

  

しかし、これはちょっと容認できないよねという話が飛び出してきました。

 

 ■”Drug Goes From $13.50 a Tablet to $750, Overnight”「1錠13.5ドルの薬が1晩で750ドルに!」(The New York Times

  ow.ly/Sy5jO

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HIVの治療薬で標準治療として組み込まれている、Daraprimという薬( 日本では未承認)があります。

 

発売後62年(!)も経っているような非常に古い薬で、HIV以外にマラリアトキソプラズマ症などの感染症にも用いられます。

 

この薬の販売権をTuring Pharmaceuticalという米国の新興製薬会社が8月に取得したと思ったら、薬価を1夜にして1錠13.5ドルから750ドルと一気に50倍以上に値上げしてしまったというのです。

 

米国は日本と異なり、「自由薬価制度」、つまりメーカーが薬剤の価格を自由に決めることができます。今回は、まさにその弊害が出たと言わざるを得ません。

 

本件に関しては、関連する学会や患者会からも様々な形で非難・抗議の声が上がっていますし、民主党の大統領選候補、ヒラリー・クリントンさんも

 

“Price gouging like this in the specialty drug market is outrageous.  Tomorrow I’ll lay out a plan to take it on.”

「難病治療薬の市場でこの類の異常な薬価高騰は酷すぎる。明日にでも対策プランを出すわ」

 

ツイッター上で発言するなど、一気に社会問題化してきている様相。

 

Turiing社のShkreli社長というのはヘッジファンドのマネジャー出身で、今回の値上げについて、「ここで得られた利益を新たな薬の開発に回す」と言っているようですが、さすがにこれは「Greed(銭ゲバ)」と言われても仕方ないでしょうね。

「近藤誠医師と大場大医師の対決」で見逃されている決定的な”事実”

少し前の話になりますが、週刊文春の夏の特大号で、近藤誠医師と大場大医師が「”がん放置療法”は正しいのか?」というお題で「対決」しています。

 

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週刊新潮上での大場医師の「近藤批判」に対して近藤医師が反論。

 

「『手術をした方が寿命が延びる』、『時間と共に早期がんは大きくなり転移する』。そう主張するなら、大場さんはこれが事実であると証明するべき側に立っているんですよ。」

 

「手術する根拠やがん検診を受ける意味…。本来はみな、医者たちがエビデンスを示すべき事柄なんだけど、少なくとも早期発見の分野、あるいは固形がんの抗がん剤治療については何一つ証明されていないのが実態です。」

 

等々、「口撃」しつつ、自説を展開しています。

 

残念ながら大場医師の誌面上の反論は「医の倫理」や「医学会の通説」、そして「ご自身の臨床経験」に基づく話に終始しているため、近藤医師の「そもそも治療を正当化できるエビデンスはあるのか?」という攻撃に反撃しきれていない印象で終わってしまっています。

 

では、近藤医師が主張するように現代のがん医療は本当に意味が無いのでしょうか?

 

実は、はっきり決着がつけられるデータが存在します。

 

 ■「全がん協加盟施設の生存率共同調査 全がん協生存率」(全国がん(成人病)センター協議会)

  

「近藤理論」を当てはめれば、固形がんはどんなに小さい時に見つけても、「本物のがん」はすでに転移していて治療しても効果は無いし、転移していないものは「がんもどき」なので放置して大丈夫。結局、治療をする意味はないことになります。

 

ということは、「近藤理論」が正しければ、治療の方法がどう進歩しようが、同じステージ1(いわゆる「早期発見」の段階)で発見された患者さんの生存率は変わらないはずですが、実際はどうでしょうか。

 

上記のサイトから、「全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2014年9月集計)」 のデータを見てみましょう。全国29のがん専門診療施設の1997年から2004年までの24万診断症例をデータベース化したものですので、信頼度はかなり高いです。

 

同じ50歳代でステージ1*のがんを発症したとして、1997年に罹患した人と2005年に罹患した人との5年後の相対生存率(がんによる死を免れた率)は↓のようになります。

 

・胃がん 96.2% ⇒ 96.3%

・大腸がん 87.9% ⇒ 98.6%

・肺がん 80.6% ⇒ 88.4%

乳がん 96.5% ⇒ 99.9%

 

胃がんを除けば、この8年間で生存率が改善していることが見て取れます。

 

生存率で考えると大した改善に思えないかもしれませんが、死亡率で考えればそのインパクトもわかりやすい。

 

例えば、乳がんで言うと、1997年に発見された場合、5年以内に乳がんで命を落とされる方が1000人中35人はいたのが、2005年に発見された場合は1000人中たった1人のみという数字になるのです。

 

これは普通に読み取れば、術式の進歩や、新薬の登場、術後の抗がん剤治療の徹底といった、治療の進歩で説明できます。(早期胃がんについては、この8年間での治療の進歩は殆ど無かったとも言えます)

 

近藤誠センセイ、これでも早期固形がんの治療に意味はないのですかね?



*50歳代のステージ1のセグメントを選んだ理由は、以下の通り
1)余命の話なので同じ年代で比べないと正確性を欠く(年齢のセグメントでなく全体で比べてしまうと、年齢のミックスが異なる影響を受ける)
2)ある程度若くて合併疾患もまだそれほどない年代のため、普通に手術するであろうことが予想される
3)上記の条件をやはり満たす40歳代よりはn数が多い

 

酒は百薬の長ではない!?〜少量の飲酒でがんの罹患リスクが上昇〜

深酒は身体に良くないことは当然ですが、適量の飲酒はむしろ良く、「百薬の長」と考えられてきましたし、実際にそれを裏付けるようなデータも色々と出てきています。

 

しかし、そんな健全な吞ん兵衛さんにバッド・ニュースが入ってきました。

 

 ■”Light to moderate intake of alcohol, drinking patterns, and risk of cancer: results from two prospective US cohort studies”「少量から中等量の飲酒・パターンとがんの罹患リスク」(BMJ)

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米国で13万人以上の看護師を25年間追跡調査した、かなり大規模な研究です。

 

大量の飲酒がいくつかの種類のがんの発症リスクと相関しているのは既に知られているため、この研究では少量(1週間で日本酒2合くらいまで)から中等度の量(1週間で日本酒5合くらいまで、もしくは「やや多め」で10合くらいまで)の飲酒とがんの発症リスクの関係を調べるのが目的で始められました。

 

結果わかったことは、非飲酒者と比べ、すべてのがんの発症リスクが

 

・少量の飲酒者(男性):3%増

・中等量の飲酒者(男性):5%増

・やや多めの量の飲酒者(男性):6%増

・少量の飲酒者(女性):2%増

・中等量の飲酒者(女性):4%増

 

と、アルコール摂取が増えるとがんの罹患リスクも若干上がるという結果になりました。

 

上記は「すべてのがん」対象で、飲酒が関連すると考えられているがん種(大腸がん、女性の乳がん、口腔がん、咽頭がん、肝臓がん、食道がん)に限ると、例えば中等量の飲酒者(女性)で13%増と、もっと高い数字になります。

 

ただし、面白いことに、非喫煙者の男性の場合は飲酒によるがん罹患リスク増は無かったということです。(残念ながら女性の場合は喫煙の有無は関係なくリスクが増えるとのこと)

 

適量な飲酒は心不全脳卒中のリスクは下げるというデータも複数ありますので、禁酒した方が健康に良いとまで言えないと思いますが、がんに限って言えば「酒は百薬の長」とは言い難し、ですね…

”1000”の大台突破:イシュラン昨年末からここまでの振り返り

ちょっと久しぶりに、乳がんの病院・名医ガイド「イシュラン」の拡充状況をご報告します。

 

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・カバー都道府県が12、掲載医師数も1,167人に!

昨年12月初めの時点では愛媛県のみだったのが、現在は、東京・千葉・京都・大阪・兵庫・岡山・広島・香川・徳島・高知・愛媛・鹿児島、と12都府県にまで拡がりました。

これにともない、掲載病医院数は435施設、医師数は1,167人にまで増えました。

 

・サイトアクセス数も5倍以上に!

アクセス数(セッション数)は、昨年12月時点では1日にせいぜい100程度だったものが、7月には500を超える日も出てくるようになりました。

 

・医師コミュニケーション・タイプが大人気

「学究型」「リーダー型」「聴き役型」「話し好き型」の4類型に分けている「医師コミュニケーション・タイプ」への投票が好調です。3月に投票時のログインを不要にしたところ一気に投票数が増え、今月に入り累計の投票数がついに1000を超えました!

 

投票数ベスト3の先生はこちら。

 

 第1位:飯島 耕太郎 先生 →25票

 (東京 順天堂大学医学部附属順天堂医院 乳腺科)

 第2位:北川 大 先生 → 18票

 (東京 公益財団法人 がん研究会 有明病院 乳腺センター)

 第3位:三浦 大周先生 → 15票

 (東京 虎の門病院 乳腺・内分泌外科)

 

第1位の飯島先生からいただいた言葉です。

 

「一番投票数が多かったとは嬉しいですね。僕はまず患者さんの話を聴くことを徹底しています。一回目は時間をかけてともかく話を聴くだけにして、治療方針の話はあえてしません。じゃあどうしましょうという話は次回来てもらった時にします。」

 

昨年末から上半期までの振り返り(少し数字は旧いです)を、↓でスライドにまとめていますので、PowerPointで入手されたいという方は、こちらからご自由にどうぞ。

 

 ■「イシュランニュース 2015年上半期」

  

全国制覇に向けてさらにギアを上げていきますので、今後の進展にもどうぞご期待下さい!

“Shared Decision Making”〜がん治療の選択スタイルが変化する〜

前回のメルマガでASCO(米国臨床腫瘍学会)の話題をお届けしましたが、今年のASCOで「免疫チェックポイント阻害剤」と共に大きなテーマとして取り上げられたのが、「Value」のコンセプトです。

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いきなり、「Value」と言われても何のことだかわかりにくいですね。

 

大雑把に言うと、その治療で見込める「効果」から「副作用」を差し引いた価値が、治療にかかる費用と見比べてどうか、というのが「Value」の考え方です。

 

ASCOは、この「Value」の概念を、医師と患者で行なう治療方針の決定の場に持ち込むべきと考えています。その理由は大きく2つあります。

 

1つは、「がん治療にかかるコストが格段に高額になってきたこと」です。

 

このメルマガでも何度か取り上げているように、昨今の分子標的薬は年間のコストが数百万円レベルですし、最近では1000万円を超えるような超高額の抗がん剤まで出てくるようになりました。

 

医療保険のカバーが限定的な米国だと、「がん治療費で破産」ということも現実としてあり得ます。

 

そうなると、「Financial Toxicity(財務毒性)」という言葉まででてきている通り、経済面での負担は、治療選択の上で無視し得なくなって来ているというわけです。

 

もう1点は、医師と患者との間での治療方針の決定方法が、「Shared Decision Making(共同意思決定)」のスタイルに変わりつつあるということです。

 

患者さんにとって、同じ副作用でもまったく違う意味を持ってきます。

 

たとえば、「手足のしびれ」は楽器の演奏を生き甲斐や生業にしている人にとって、そうでない人と比べたら重大さが異なります。

 

「脱毛」もそうですね。ある人にとっては、命が助かる確率が上がるのであればなんてことない人もいれば、死ぬほど嫌という人もいるでしょう。

 

上述した経済面での事情も、当然患者さん個々によって変わってきます。

 

そんな患者さん個々の嗜好や生活の事情に合わせた形で、その時ベストと考えられる治療方法を医療者と患者が共に選択していくスタイルが、「Shared Decision Making(共同意思決定)」です。

 

ASCOが「Value」を推し進めるということは、今後「Shared Decision Making(共同意思決定)」が治療意思決定スタイルの本流になっていくということです。

 

今の日本ではIC(Informed Consent)、つまり「治療内容の説明をして患者さんの同意を取り付ける」スタイルがまだ主流ですが、それだと患者さん個々の思いや事情が反映された治療になるとは限りません。

 

日本でも「Shared Decision Making(共同意思決定)」のスタイルが普及するよう、私も後押して参ります。

【ASCO特別版】 抗がん剤治療に革命が始まった〜免疫療法時代の幕開け〜

今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)は「免疫療法(Immunotherapy)時代の幕開け」を強く感じさせる大会でした。

 

会の副題が”Illumination & Innovation”(「解明」と「革新」)だったことでも明らかなように、革新的な”ホンモノの免疫療法”についての演題ががん種を問わずずらりと並び、世界中から集まった医師たちの「熱気」を感じ取ることができました。

 

今週のメルマガは「特別版」としてASCOで仕入れた最新情報を、わかりやすくお伝えします。

 

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<”ホンモノの免疫療法”って何?〜免疫チェックポイント阻害剤の仕組み〜>

 

ヒトの身体には「免疫機能」が備わっています。すなわち、細菌やウィルスなど「異物」が入り込んだとき、私たちの免疫機能が働いて異物を攻撃し、破壊してくれるのです。

 

がん細胞も例外ではなく、我々の身体の中では毎日のようにがん細胞ができると免疫機能が「異物」と認識して排除してくれているので、簡単にはがんに罹らないですんでいるわけです。

 

免疫機能の主軸の一つが、細胞障害性T細胞(キラーT細胞)と呼ばれる免疫細胞です。

 

www.youtube.com

YouTube

  

 

詳細は端折りますが、ヘルパーT細胞と呼ばれる別の種類の免疫細胞が身体の中に異物となる細胞を認識すると、「こんな悪者がいますぜ」と照合写真付きでキラーT細胞に情報を渡す。するとキラーT細胞が目覚めて「悪者」を探し、見つけ次第動画にあるように攻撃を加えます。

 

ところが、がん細胞は巧妙にもPD-L1と呼ばれる物質を表面に出して、近づいてきたキラーT細胞の表面にあるPD-1と呼ばれる物質に結びついてしまいます。

 

そうすると、せっかく目覚めていたキラーT細胞に「おやすみスイッチ」が入ってしまい、おとなしくなってしまうのです。

 

逆に言えば、このPD-L1とPD-1の結合を妨げてしまえば、キラーT細胞が本来の攻撃力を発揮できるようになるわけです。T細胞側のPD-1を塞いでしまうのがPD-1阻害剤、腫瘍細胞側のPD-L1を塞いでしまうのがPD-L1阻害剤になります。

 

PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、そして別の種類のスイッチを防ぐCTLA-4阻害剤など、免疫機能のスイッチがオフになるのを防ぐ薬剤を「免疫チェックポイント阻害剤」と呼びます。

 

日本でがんの免疫療法というと、樹状細胞ワクチン療法やらNK細胞療法など、治験で有効性や安全性がまったく確認されていない「えせ免疫療法」の方が目立っていますが、どうかこれらと混同しないようにしてください。

 

 

 

<効果があってなおかつ副作用が少ない>

 

抗がん剤といえば、効果はそこそこあったとしても副作用もかなりあるのが相場でした。

 

また、新薬のほとんどは、プラセボ(偽薬)との比較や、既存の治療薬に”上乗せ”した形で効果を確認して世の中に出て来ているケースがほとんどで、既存の標準的な治療薬とガチンコでいきなり勝負(比較)して出てくるということはまずありませんでした。

 

ところが、免疫チェックポイント阻害剤は、既存の標準治療とのガチンコ勝負で効果も安全性も「圧勝」しはじめているのです。

 

 今回のASCOで数多く発表された免疫チェックポイント阻害剤の最新治験データの中から、一番インパクトの大きそうな、非小細胞肺がんでのPD-1阻害剤ニボルマブの治験データをご紹介します。 

 ■”Nivolumab Considered Practice Changing in Refractory, Advanced Nonsquamous NSCLC”「ニボルマブが進行非小細胞肺がん(非扁平上皮がん)の治療体系を変える」(ASCO Daily News)

   

フェーズ3の治験で、プラチナ製剤で既に治療された患者582名を、ニボルマブ投与群と現在の標準治療であるドセタキセル投与群の2群に分けて治療、比較したところ、全生存期間(OS)の中央値で、12.2ヶ月vs 9.4ヶ月と、有意差ありでニボルマブに軍配が上がりました。

 

特筆すべき点が2つあります。

 

1つめは、PD-L1が発現しているがん細胞が1%以上ある場合の全生存期間は17.2ヶ月と、ドセタキセル群の倍程度あること。1%未満の場合は、効果面での有意差は無いので、このPD-L1の有無が薬の効果を予測する因子になり得るということです。

 

2つめが、グレード3以上の重篤な副作用の発症率が10%vs54%と、ニボルマブ群が圧倒的に少ないことです。 この10%というのは、抗がん剤としては衝撃的に少ない数値で、患者さんにとっては間違いなく福音と言えます。

 

 

 

 

<今後の展開と課題>

 

免疫チェックポイント阻害剤の今後の展開で注目すべきは、「広範囲のがん種への適応拡大」、「”組み合わせ”による期待効果の上昇」、「価格問題」の3つです。

 

まず、「広範囲のがん種への適応拡大」ですが、前出の肺がん以外でも、肝臓がん、膀胱がん、腎がん、悪性リンパ腫などで免疫チェックポイント阻害剤の治験が次々に進んでおり、いずれも極めてポジティブな結果が出つつあります。

 

際立った遺伝子変異が一つあるようなタイプのがんよりも、色々な遺伝子変異が発現している”複雑な”(逆に言えば現状臨床成績がよろしくない)がんに向いているらしいのです。

 

ちなみに、乳がんではトリプルネガティブで有望と考えられていますが、ともかくも迅速な適応拡大が期待されます。

 

次に、「”組み合わせ”による期待効果の上昇」ですが、免疫チェックポイント阻害剤同士の併用、化学療法や分子標的薬との併用、さらにはがんワクチンとの併用など、今後様々な使い方でより効果の出る方法が模索されることになりそうです。

 

今回のASCOでは、悪性黒色腫でのCTLA-4阻害剤(イプリブマブ)とPD-1阻害剤(ニボルマブ)の併用の治験結果が発表されました。

 

イプリブマブ単剤群、ニボルマブ単剤群、イプリムマブ+ニボルマブ併用群の3群で比較したところ、全生存期間(OS)のデータは未だ出て来ていないものの、無増悪生存期間(PFS)では、2.9ヶ月vs6.9ヶ月vs11.5ヶ月と、併用群がベストの結果。

 

ただし、Grade3以上の重篤な副作用も、27%vs16%vs55%、と併用するとぐっと増えることがわかり、組み合わせで使う時は単剤の時とは異なる注意が必要になるかもしれません。

 

最後に「価格問題」です。

 

以前のエントリー「Vol.30 「ホンモノの免疫療法」の登場:PD-1阻害剤」 でも書きましたが、このクラスの薬剤の年間薬剤費は1500万円を超えます。

 

今後、適応が広がって投与される患者さんの数が10万人くらいになったとします(この程度は余裕であり得る数字)。すると、それだけで薬剤費は年間1.5兆円と莫大な金額となり、他の薬剤費を削りでもしない限り、厳しい保険財政の中で賄うことはまず無理でしょう。

 

ましてや、前述の「免疫チェックポイント阻害剤の併用」などしようものなら、とんでもないコストになります。

 

ASCOでもこの問題は非常に真剣かつ深刻に受け止められており、「Value(価値)」というのが今年のもう一つのテーマでした。

 

その薬剤が、本当に価格に見合うだけの価値が提供できているのか、厳しく問われる時代になってきていることは間違いありません。

ご褒美は先に上げた方が効く〜禁煙に最良の効果をもたらすインセンティブ〜

前号に続き、禁煙関連の話題です。

 

ちょっと面白い報告がありました。

 

ow.ly

(TIME、元ネタNEJM)

   

 

CVSケアマークという会社の社員2000名以上を使っての、禁煙の試験です。

 

被験者を「報奨金を先にもらい禁煙に失敗したら返還する」群(A群)、「禁煙に成功したら初めて報奨金をもらえる」群(B群)、「禁煙補助のための治療が無料で受けられる」群(C群)、など、5種類のインセンティブ群に分け、禁煙にトライしてもらいます。

 

すると、A群の禁煙成功率は、B群の2倍そしてC群の5倍と、圧倒的に高かったという結果となりました。(残りの2群のサポート内容と結果はこの記事からはよくわかりません)

 

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途中つらくなってきたところで止めても、B群やC群の被験者にとっては何も”被害”は発生しないけれど、A群だとあたかもお金を払わされるかのような気分になるからなのでしょうね。

 

おそらく、金額が高くなればなるほど差が大きくなるのではないかと思います。

 

この話、他にも応用が利きそうです。たとえば、ダイエット。

 

ダイエットは「うまくいったら、XXのご褒美」という立て付けでモチベーションを高めるケースが多いように思いますが、「先もらいするけど成功しなかったら返還/返金」というご褒美を周囲の人にお願いする方がもっと効果的かもしれません。

 

また、スポーツクラブの無料券をもらう、というのは全然効果的なやり方ではない、ということなのでしょうね。

 

ダイエットしたいのだけれども、何度やってもうまくいかないという方、一度これをヒントに「先もらい賞金方式」を試されてみてはいかがでしょうか。