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画期的抗がん治療「CAR-T細胞療法」が1回5000万円超だって???

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画期的抗がん治療「CAR-T細胞療法」解説します

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昨年来、当メルマガでは「ホンモノの免疫治療」である免疫チェックポイント阻害剤について、再三取り上げてきました。

 

本日は、もう一つの「ホンモノの免疫治療」である「CAR-T細胞療法」をご紹介します。

 

免疫チェックポイント阻害剤と共に、今後のがん治療を大きく変え得る治療法で、憶えておいて頂いて損はありません。

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「CAR-T細胞療法」、英語での正式名称は、”Chimeric Antigen Receptor (CAR) T-cell therapy”です。英語では単純に”CART”と省略されることが多いようです。

 

ちなみに、日本語で「CART 治療」で検索すると、難治性腹水症に対する腹水濾過濃縮再静注法(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)が出てきてしまいますが、まったくの別物で、ここでは混同を避けるために「CAR-T細胞療法」と記します。

 

さて、では「CAR-T細胞療法」ってなんじゃらほい、ということですが…

簡単に言えば、免疫細胞ががんを攻撃できるように人工的に改変してしまう治療法です。

 

免疫の機能が働く為には、免疫細胞(T細胞)が体内にある異物(=敵)を異物として認識する必要があります。異物である印を「抗原」と呼びます。抗原を認識できたら、T細胞はその抗原を目がけて特異的に攻撃します。

 

ところが、がん細胞は色々なシグナルを出して、T細胞ががん細胞を異物と認識するプロセスを邪魔することができ、T細胞の攻撃態勢が整わないようにしてしまいます。

 

そこで、T細胞を体外に取り出して、がん細胞の表面にある印(抗原)を認識できる受容体をT細胞の表面に人工的に発現させ、その”探知機付き”のT細胞を大量に増殖させてから体内に戻します。すると、体内でそのT細胞がさらに増殖した上で、標的であるがん細胞に対し攻撃を加える、というのがCAR-T細胞療法です。

 

敵(がん細胞)をロックオンした状態のミサイルを大量に製造して戦場に投入する、という戦略ですね。

 

今のところ、CD19とかCD22と呼ばれる抗原をターゲットとしたCAR-T細胞が有望と考えられているようで、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病悪性リンパ腫などを対象に海外で治験が進められています。

 

世界で最初にCAR-T細胞が作られたのは、イスラエルのWeizmann科学研究所で1980年代の末頃でした。でも、そのCAR-T細胞が実際にがん細胞を攻撃できるようなものにするまでに、20年以上の歳月が費やされてきたわけです。

 

一つの治療法が生まれるまで、かくも長くの年月と多くの研究者の”汗と知”が詰まっていることに、深い感慨を覚えます。

 

 

※CAR-T細胞療法は日本でも海外でも未承認の治療法です

 

※本稿の執筆にあたり、以下の2つの英文記事を参照しました。

・”CAR T-Cell Therapy: Engineering Patients’ Immune Cells to Treat Their Cancers” (National Cancer Institute)

  http://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/research/car-t-cells

 

・”The CAR T-Cell Race” (TheScientist)

  http://www.the-scientist.com/?articles.view/articleNo/42462/title/The-CAR-T-Cell-Race/

 

 

 

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画期的抗がん治療「CAR-T細胞療法」が1回5000万円超だって???

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さて、先日米国で開かれたASH(米国血液学会)で、前述の画期的なCAR-T細胞療法のPhase2の最新の治験結果が発表されました。

 

 ■”Novartis: Lymphoma study shows CART on track for 2017 U.S. submission” 「ノバルティス悪性リンパ腫CART治療、17年の承認申請に向けて順調」(Reuters)

  ow.ly/Vzqtt

 

対象となったのは、標準治療無効の進行悪性リンパ腫26例(びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫15例、濾胞性リンパ腫11例)です。

 

既存の標準治療が無効となった症例ですから、効果を期待できる治療法は既に無くなっている患者さんばかりです。

 

まず効果面の結果は、全奏効率(ORR、何らかのがんの縮小が画像上確認できた患者の割合)が、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫で47%、濾胞性リンパ腫で73%と、極めて良好なものでした。

 

また、安全性面はというと、いずれも程度がわからないのですが、4例でインフルエンザ様の炎症反応が見られたのと、2例で神経毒性反応が見られたということでした。

 

少数例ですし、治験の途中段階ですからまだ確定的なことは言えませんが、これを見る限りでは、安全性面でも従来の抗がん剤と比べたらだいぶましのようです。

 

CAR-T細胞療法を開発しているメーカーはノバルティス以外には、Juno Therapeutics や Kite Pharma といったバイオベンチャーがあり、2017年にはこれらの会社の製品の上市が見込まれます。

 

とここまでは良いのですが、問題がお値段です。

 

1回の治療が450,000ドルを予定されているというのです。いや、我が目を疑いましたよ。45万ドルってことは、5400万円ほどになります。

 

T細胞を取り出し、体外で改変・増殖させるという特殊なプロセスが入る細胞治療なので、原価が通常の薬物よりはるかに高くなることはわかるのですが、それでも5000万円を超えてしまうとなると、社会的に寛容できる価格を遥かに超えていると言わざるを得ません。

 

他のがん種にも応用が利きそうな有望な治療法なので、何とか普及に値する価格帯(せめて1000万円程度)になることを期待したいと思います。

 

 

※CAR-T細胞療法に関し、本稿執筆時点で筆者は特段のCOI(利益相反)はありません