緩和ケアで必要な患者目線のコトバ

がん治療における「緩和ケア」を説明するのに、WHOの提唱した痛みの概念図は非常によく用いられる。


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緩和ケア領域の気鋭のリーダーである新城先生が、以前、「『スピリチュアル・ペイン』と言っても患者さんにはわからない。患者さんにとって痛みの区別などできないのだから、『痛みの定義』などは医療従事者間のみでやるべきこと」といった趣旨のTweetをされていた。


これは全くその通りで、自分も緩和ケア素人だった頃、市民向けの公開録画で、痛みには「身体的な痛み」「精神的な痛み」「社会的な痛み」そして「霊的な痛み(スピリチュアル・ペイン)」の4つがある、という定義を拝聴し、何を言っているのかさっぱり意味がわからなかった。


医学界の方は、プレゼン自体は学会等で多数経験されているが、常にプロフェッショナルの聴衆相手であるが故に、いざ市民公開講座のような一般聴衆相手でも同じような調子でプレゼンされてしまう印象がある。


受け手目線のコミュニケーションでないと、自己満足で終わってしまいかねないばかりか、相手を傷つけてしまう事すらしかねない。


緩和ケアで私がもう一つ気になっているのが、WHOの緩和ケアの定義を図示したものだ。長方形の左下から右上までピーっと斜めの線が引かれ、上部分ががん治療、下部分が緩和ケア、としている、あの図だ。治療が尽きてから緩和ケアではなく、治療と並行して緩和ケアは行なっていくものだということを説明するために非常に頻繁に使われる。


しかし、例えばこの図を知った患者さんが、医療用麻薬の量を増やすと言われたら何を感じるだろうか、というところに想いを致して頂きたいのだ。「終わり」から逆算して考えたいと思っている患者さんは少数派だ。殆どの方は、それぞれその瞬間の”自分時間”を基準に生きている。その先の航路まで、求められない限りは敢えて説明する事ではない。


緩和ケアはある意味最も患者さん側に寄り添った医療である。そういった領域だからこそ、受け手目線のコトバが大切にされるような雰囲気を創り上げていきたい。