打つの?打たないの? インフルエンザ予防接種

寒さが増してきて、「年の瀬」を感じる時期になってきました。

それと共に、私の周りにも風邪ひきさんがだいぶ増えてきましたが、皆さま大丈夫でしょうか。

冬はインフルエンザが気になる季節でもあります。「寝込んではいられない」といくら思っても、一旦インフルエンザに罹ってしまうと、身体を動かすことすらしんどくなってしまいますよね。

個人ができるインフルエンザの対策の1つとして、予防接種があります。残念ながら保健が利かずにそれなりの金額(1回あたり4000-5000円程度)を取られるため、受けられている方は日本では全国民の2-3割程度のようです。

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<インフルエンザワクチンはの効果はない?>

それに、悪い話も出回っているようで。。。

試しに、Googleで「インフルエンザ 予防接種」と検索してみると、トップに出てくるのは、

インフルエンザワクチンは打たないで!【常識はウソだらけ】 - NAVER まとめ

 

では、インフルエンザの予防接種は本当に効果が無いのでしょうか?

上記のNAVERまとめサイトの一番上の動画*に出てくる群馬のデータですが、そのソース

ワクチン非接種地域におけるインフルエンザ流行状況

を見てみたら、↓のように、群馬県の小学生のインフルエンザ予防接種の有無と罹患状況についての分析でした。

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このレポートでは、なぜかこの結果から下図のように、非接種群として前橋市、二回接種群としては高崎市・伊勢崎市・桐生市を持ってきて両者を比較し、

前橋市と3市合計の流行規模が概ね同じくらい,との前提のもとに,前橋市と3市合計の二回接種群の罹患率を比較すれば,その差は1984年度においては2.2%,1985年度では7.4%となり,これによるワクチン有効率は,前者にあっては僅かに5%,後者にあっては27%に低下する。

と結論付けています。

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<「群馬データ」でのインフルエンザ・ワクチンの有効性否定は無理筋>

このレポートの論理の最大の問題点は、前橋市の非接種群と他の3つの市の二回接種群を比較している点です。極端な言い方ですが、日本の接種群と米国の非接種群を比較しているみたいなもので、こうした比較にはあまり意味がありません。比較するのであれば、同じ市の中で二回接種群と非接種群で比較すべきです。

比較に値するサンプル数があるのは、高崎市桐生市、伊勢崎市です。対象となった2年間でそれぞれ、下記のように読み取れます。

 

【1984年】

 ・高崎市  二回接種群の罹患率38.3% vs 非接種群の罹患率53.9%

 ・桐生市  二回接種群の罹患率39.2% vs 非接種群の罹患率51.8%

 ・伊勢崎市 二回接種群の罹患率49.1% vs 非接種群の罹患率58.4%

 

【1985年】

 ・高崎市  二回接種群の罹患率18.6% vs 非接種群の罹患率30.9%

 ・桐生市  二回接種群の罹患率22.8% vs 非接種群の罹患率32.2%

 ・伊勢崎市 二回接種群の罹患率23.1% vs 非接種群の罹患率35.9%

 

で、ここで、もう一つの問題点なのですが、「罹患」の定義が、“37℃以上の発熱があって,連続2日以上欠席した者”もしくは“発熱は不明であるが,連続3日以上欠席した者”ということです。冬場ですから、ノロウィルスやら他の多様な風邪やらが当然流行りますので、正味インフルエンザで欠席した人というのは、絶対値としてもっと少ないでしょう。

従って、このデータからざっくり言えるのは、「インフルエンザ予防接種を2回接種した群は、非接種群と比較して、“37℃以上の発熱があって,連続2日以上欠席した者”もしくは“発熱は不明であるが,連続3日以上欠席した者”の発生率が、おおよそ10ポイント程度下がっている」というくらいのことです。

10ポイント程度違うということは、たとえば、正味のインフルエンザでの罹患率が接種群10%vs非接種群20%であれば、ワクチンの有効率は50%ということになります。

いずれにせよ、この群馬データから「インフルエンザ予防接種の効果はなかった」という結論を出すのはいくらなんでも無理筋ですし、そもそも1本のデータだけで決定的なことを言えるものでもありません。

 

<米国CDCの結論は、“60%程度の有効率”>

ちなみに、米国のCDCでは、インフルエンザワクチンの有効性に関し、こんな感じのことを言っています。(CDCのHP http://www.cdc.gov/flu/about/qa/vaccineeffect.htm 参照) 

 

インフルエンザワクチンがどれくらい効くのかというのは季節によって大きく異なってくる。また、誰が接種を受けるかによっても異なる。年齢や健康状態など接種を受ける人によっても違うし、実際に流行するインフルエンザの型とその年に接種するワクチンの型の適合状況によっても変わってくる。

・・・

毎シーズン、研究者たちはインフルエンザワクチンがどの程度有効だったかを把握しようとして、インフルエンザワクチンの公衆衛生への“価値”を評価している。研究結果は、研究デザイン、評価指標、実施対象、実施年によって異なっている。

かくのごとくインフルエンザワクチンの価値を結論づけるのは難題ではあるが、近年の研究結果は概ねワクチンが公衆衛生に益をもたらすという結論を裏付けている。

・・・

近年の研究結果から言えるのは、その年の予防接種で対応しているウィルスの型が実際にその年に最も流行したウィルスの型と適合する場合は、60%程度罹患リスクを下げるということだ。

 

 

あとはワクチンの安全性についてです。重篤な副作用としてギランバレー症候群(筋肉を動かす運動神経の障害のため、急に手や足に力が入らなくなる病気)について騒がれているようですが、同じくCDCのウェブサイトで100万人接種して1-2人以下ではあるが発症が増えるリスクがあると結論付けられています。米国では、ギランバレー症候群はワクチン接種の有無に拘わらず、100万人で20-30人程度発症しています。そこに1-2人上乗せリスクがあるかないかというレベルの話です。

 

<一個人としては予防接種の効果は実感>

こうした効果と安全性を考えた上で、打つか打たないか、あとは個人で決めるしかないですね。

ちなみに、私自身は自分独りで事業をやっていて、文字通り「替えの利かない」状況ですし、医療機関に出入りする頻度も普通の方より多いので、ここ10年ほどは毎年インフルエンザの予防接種をしています。

大体、打たれたその日は、ぽーっとして熱っぽくなったり、注射部位が2-3日ほど硬くなって痛痒くなるという副反応を経験します。でも、打った年は今までのところ、明らかにインフルエンザというような状態になったことはありませんし、ひょっとしてインフルエンザ?というような症状が出ても大したことなく終わっています。打っていなかった時代は、2-3年に1度くらいは酷い目にあっていましたので、一個人の経験としては効果を実感しています。

 

最後に、がん患者さんにとってのインフルエンザ予防接種ですが、腫瘍内科医の先生に確認したところ、「骨髄抑制の時期を避ければOK」とのことでした。抗がん剤投与中の患者さんは、打とうと考えられる場合は必ず事前に主治医と確認されてください。

 

*「同が」⇒「動画」と誤字を修正(2014年11月7日)