他人事じゃない:英国NHSががん治療薬の費用補助をバッサリ削除
「NICE」と聞いて英国の国立医療技術評価機構であるとピンとくる方は、相当の医療通です。
日本の厚生労働省にあたる「NHS」という政府機関に属しており、英国では「NICE」が新薬に対して科学的かつ経済的な評価を行ない、通常の医療保険制度を適用するか否かを決定します。
適用が認められないと保険が利かないため、新薬の市場への普及の道は事実上閉ざされることになります。
実はがんの新薬の多くが、十分な費用対効果が認められないとして「NICE」で保険適用を否決されているのですが、さすがにそれじゃマズいだろうということで、政治主導の形で政府として費用補助を行なう制度が出来上がりました。
ところが、今回その費用補助の対象から多くのがん治療薬がバッサリ削除されることになったというニュースが入ってきたのです。
■”NHS to AXE 21 cancer treatments as part of efforts to cut Cancer Drugs Fund by £80 million”「NHSががん治療薬の費用補助を21種類で削除」(MailOnline)
削除対象のリストを見ていると、
・乳がん:エリブリン(ハラヴェン)、エベロリムス(アフィニトール)、ラパチニブ(タイケルブ)
・肺がん:ペメトレキセド(アリムタ)
・大腸がん:ベバシズマブ(アバスチン)
・前立腺がん:カバジタキセル(ジェブタナ)
など、日本のがん治療でも広く使われている薬剤がずらりと並んでいます。
このニュースが日本のがん患者さんにとっても他人事でないのは、日本の保険制度も、将来英国型になっていく可能性がかなり高いと考えなければならないからです。
今、日本で出てきているがんの新薬の大半は、高額な「分子標的薬」です。その問題点については、↓のブログ記事で詳しく書きました。
1年延命のコストが1500万円?~新薬カドサイラの薬価問題が暗示する未来~ - メディカル・インサイトの社長日記<Part.2>
そして、先ほど書いたニボルマブに至っては、カドサイラより更に高額なのです。
そんな高額な薬の使用を保険診療として認め続けていったら、ただでさえ破綻に近づいている医療保険制度がそのままの形を保てるはずもありません。
ということは、高額な治療薬については保険対象から外れたり、保険適用が厳格化されたり(たとえば、X歳以上は認めないなど)というような話になる可能性が十分にあるというわけです。
ではどうしたら良いかという答えは簡単には見つかりません。
私自身は、高齢者の保険負担比率を他の世代と同等の3割に戻す、消費税は少なくとも20%程度までは増税するなどして、社会保障費のカットはなるべく避ける方向に行くべきと考えていますが、それでもこれだけ高額な医療を全員保険でカバーすることはできなくなるだろうとも思います。
残念ながら、「不都合な真実」がそこにあることだけは、確かなのです。