[医療の変革]ドラッグラグと薬害の処方箋〜事前の入口規制から事後のモニタリング強化へ〜

昨晩は、国立がんセンター中央病院・土屋病院長の最後の主催講演会に出席した。


スマイリーの片木さんが卵巣がんドラッグラグについて、元厚労省の村重さんがドラッグラグ・ワクチンラグ・デバイスラグ・薬害の根っこにあるものについて、の講演であった。


ドラッグ・ラグについては、以前のエントリー「ジェムザールとドラッグラグ」(http://d.hatena.ne.jp/healthsolutions/20100308/1268060036)でも取り上げてきたが、今回の講演会でも片木さんがまさにこの問題について、取り上げた。


村重さんの話は、結局根本的な原因は「日本では(薬剤使用結果の)データベースが公開されていない」ことと「日本には無過失補償・免責制度がないこと」の2点であるということだった。


この2点は確かに重要なのだが、僕がどうしても外してはいけないと思うのは、薬事行政における「事前の入口規制から事後のモニタリング強化」の発想転換の必要性である。ドラッグ・ラグも薬害も、この発想転換が十分でないから起きている事である。


「ジェムザールとドラッグラグ」でも書いたが、多少のドラッグラグがあることはむしろプラスに働くことがある。なぜなら、未知の新治療薬でも海外での使用成績がかなりはっきりするのが見えてくるからである。


従って日本のとるべき戦略は、上記の状況を奇貨として、海外でガイドラインに記載されるようなエビデンスレベルの高いデータが出た薬剤については、原則治験なしで承認してしまい、その代わりに事後のモニタリングをがっちりやる、ということだ。


厚生労働省がPMDA(医薬品機構)の役割低下を危惧するかもしれないが、市販後のモニタリングにしっかり役割を果たすのであれば、それほど人を削るという話にはならないのではないか。たとえば、市販後のモニタリング期に関しては、がん治療薬なら拠点病院のみでの使用を認め、1年間かけて全例モニタリングする。3か月・6か月時点では中間解析を行なって、未知の副作用等が出ていないか見極める。これくらいのことをすれば、"薬害"も起こらずに済む。


それでも患者から訴えられる事をおそれるのなら、1年間の「仮免許」期間での投与に際しては患者から同意書を取れば良い。治療の選択肢を求めているがん患者さんにとって、それくらいのリスクテークが問題になるとは思えない。


今回、会場から何か意見があればという振りがあったので、上記の「『事前の入口規制から事後のモニタリング強化』の発想転換の必要性」につき簡単に申し上げて口火を切ったところ、会場の議論が盛り上がって何よりだった。


議論の中での土屋先生の言葉で非常に印象的だったのが、「我々医師は患者と向き合うことを疎かにしてきたから、現在の状況がある。何か問題があったら国に頼るような姿勢は排し、患者さんと直接対話し状況を変えていく気概を持たなければならない」というものだ。


土屋先生には前職の時代から、ナショナルセンターのトップらしからぬ大胆かつ切れ味のある発言に大変感銘を受けていたが、この発言・心意気には胸を打たれた。


最近の日経ビジネスで、国立がんセンターの病院長としての苦労の裏話がかなり詳細に書かれていたが、ここまでのご活躍と、その潔く筋の通った身の退き方に対し、心より拍手を送らせて頂きたい。