医療の質の可視化〜米国ベス・イスラエル病院の事例〜

医療の質の可視化について考えさせられる事例が、米国ボストンのベス・イスラエル病院のCEO・Paul Levyのブログ"Running a Hospital"(http://runningahospital.blogspot.com/)に出ていた。


題して、"Progress in ICU" (http://runningahospital.blogspot.com/2010/01/progress-in-icus.html


ICU内での人工呼吸関連肺炎(VAP)の発生率の推移を示すグラフが一枚。そして、ICUの平均在日数、スループット(患者数)、死亡率の推移を示すグラフが一枚入っている。


一枚目のグラフから、この病院ではVAPの発生を(おそらくプロセスの改善により)過去3年間で744例未然に防いだということが読み取れる。これは15百万ドル相当の医療費削減効果につながっているが、一方で出来高制の病院にとって売上機会の損失という見方もできる。


これに対し、Paul Levyは、「そもそも正しいことであり、それだけの患者さんの命を救うことになる」という倫理的な理由に加え、「(VAP発生率が下がることにより)平均在日数が減ってスループットが増えた」という経営面でのプラスも強調している。


ということで、DPC導入を中心としたコスト・コントロールのみに目が行きがちな現状に対し、質の指標を自ら表に出すことにより、「病院の矜持」を示している。


まずはこの「侠気」に拍手を送りたい。


この類のデータは、日本で電子カルテを導入している病院であれば、その気になれば十分に作成可能だろう。折角のデータをどのように活かすか、これから問われてくるはずだ。


以前のエントリー(http://d.hatena.ne.jp/healthsolutions/20100118/1263824297)にも記したが、日本の大半の病院がDPCを採用するようになっている今だからこそ特に、「質での競争」が問われるのだ。(逆に患者も保険者も質だけモニターすれば良い)


それにしても、「Throughput」という懐かしい単語には目を引かれた。「Throughput」は、有名な「The Goal」で初めて出てきた概念で、要は単位時間当たりのアウトプットがどれくらいあるかを示す。ICUの場合は一定期間の間にICUから退院(退室?)した患者の数ということになる。一人でも多くの患者を助ける、というのは明らかにICUの評価指標として相応しいものであり、質を測るのにどんな指標が適正なのかが良く考えられているなと感じた。


"What gets measured, what gets done." 測定されなければ変化は起きないのである。