全がん協の新データから見える、がん治療10年の進歩
年明けに全国がんセンター協議会(全がん協)から、本邦初のがんの「10年生存率」データが発表され、比較的大きなニュースとなりました。
全がん協の生存率データ自体は以前の記事で取り上げたものなので、ご記憶の読者の方もいらっしゃるかもしれません。
今回、日経の記事を始め、部位による差に報道のフォーカスが当たっていた感じがしますが、もっと大事な観点は、同じ部位・同じステージ・同じ年齢層の患者さんの生存率が以前と比較してどう変化しているか、です。なぜなら、そこにがん治療の「進歩」が見て取れるからです。
50歳代でステージ1のがんを発症したとして、1997年に診断された人⇒2007年に診断された人、で、代表的ながん種で5年後の相対生存率(がんによる死を免れた率)を比較してみましょう。(上記記事時点では2005年被診断者のデータまでしかありませんでした)
・胃がん 96.2%⇒96.3%
・大腸がん 87.9%⇒99.1%
・肺がん 80.6%⇒93.2%
・乳がん 96.5%⇒99.4%
胃がんはほとんど変化なしですが、大腸がん・肺がんは大きく改善しています。そして、乳がんは若干改善といったところでしょうか。
ちなみに、日経の記事で槍玉に挙げられた膵臓がんは、ステージ1の症例数が極めて少なく、信頼に足るサンプル数がそろっていません。(それだけ、早期発見が難しい部位なのです)
では、ステージ4ではどうでしょう。
・胃がん 11.0%⇒8.0%
・大腸がん 7.3%⇒22.0%
・肺がん 2.2%⇒4.8%
・乳がん 32.1%⇒31.4%
・膵臓がん 5.5%⇒0.8%
となり、ステージ4だと大腸がんを除いて、残念ながらあまり改善していないように見えます。
大腸がんは、確かに2000年代に新しい治療法が出てきて標準療法が書き換えられましたが、他の部位でも新しい治療法はそれなりに出てきており、どうもイメージに合いません。
そこで、ステージ4での治療成績をよりストレートに反映すると考えられる「1年生存率」で比較してみました。
すると、、、
・胃がん 29.4%⇒46.8%
・大腸がん 45.5%⇒75.4%
・肺がん 30.4%⇒47.8%
・乳がん 73.9%*⇒81.3%
・膵臓がん 27.0%*⇒21.3%
*1997年の被診断群のみだとサンプル数が不足していたため、1997/1998年の被診断群のデータとした
となりました。
膵臓がんだけ数字が悪化しているのが若干気になるところですが、大腸がんのみならず胃がん・肺がんも明確に改善しています。
やはり、がん治療は全体として着実に「進歩」しているのです。
あとは、米国の「Moonshot」の如くいかにギアを上げてこの進歩を加速化させていくか、ですね。