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「近藤誠医師と大場大医師の対決」で見逃されている決定的な”事実”

少し前の話になりますが、週刊文春の夏の特大号で、近藤誠医師と大場大医師が「”がん放置療法”は正しいのか?」というお題で「対決」しています。

 

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週刊新潮上での大場医師の「近藤批判」に対して近藤医師が反論。

 

「『手術をした方が寿命が延びる』、『時間と共に早期がんは大きくなり転移する』。そう主張するなら、大場さんはこれが事実であると証明するべき側に立っているんですよ。」

 

「手術する根拠やがん検診を受ける意味…。本来はみな、医者たちがエビデンスを示すべき事柄なんだけど、少なくとも早期発見の分野、あるいは固形がんの抗がん剤治療については何一つ証明されていないのが実態です。」

 

等々、「口撃」しつつ、自説を展開しています。

 

残念ながら大場医師の誌面上の反論は「医の倫理」や「医学会の通説」、そして「ご自身の臨床経験」に基づく話に終始しているため、近藤医師の「そもそも治療を正当化できるエビデンスはあるのか?」という攻撃に反撃しきれていない印象で終わってしまっています。

 

では、近藤医師が主張するように現代のがん医療は本当に意味が無いのでしょうか?

 

実は、はっきり決着がつけられるデータが存在します。

 

 ■「全がん協加盟施設の生存率共同調査 全がん協生存率」(全国がん(成人病)センター協議会)

  

「近藤理論」を当てはめれば、固形がんはどんなに小さい時に見つけても、「本物のがん」はすでに転移していて治療しても効果は無いし、転移していないものは「がんもどき」なので放置して大丈夫。結局、治療をする意味はないことになります。

 

ということは、「近藤理論」が正しければ、治療の方法がどう進歩しようが、同じステージ1(いわゆる「早期発見」の段階)で発見された患者さんの生存率は変わらないはずですが、実際はどうでしょうか。

 

上記のサイトから、「全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2014年9月集計)」 のデータを見てみましょう。全国29のがん専門診療施設の1997年から2004年までの24万診断症例をデータベース化したものですので、信頼度はかなり高いです。

 

同じ50歳代でステージ1*のがんを発症したとして、1997年に罹患した人と2005年に罹患した人との5年後の相対生存率(がんによる死を免れた率)は↓のようになります。

 

・胃がん 96.2% ⇒ 96.3%

・大腸がん 87.9% ⇒ 98.6%

・肺がん 80.6% ⇒ 88.4%

乳がん 96.5% ⇒ 99.9%

 

胃がんを除けば、この8年間で生存率が改善していることが見て取れます。

 

生存率で考えると大した改善に思えないかもしれませんが、死亡率で考えればそのインパクトもわかりやすい。

 

例えば、乳がんで言うと、1997年に発見された場合、5年以内に乳がんで命を落とされる方が1000人中35人はいたのが、2005年に発見された場合は1000人中たった1人のみという数字になるのです。

 

これは普通に読み取れば、術式の進歩や、新薬の登場、術後の抗がん剤治療の徹底といった、治療の進歩で説明できます。(早期胃がんについては、この8年間での治療の進歩は殆ど無かったとも言えます)

 

近藤誠センセイ、これでも早期固形がんの治療に意味はないのですかね?



*50歳代のステージ1のセグメントを選んだ理由は、以下の通り
1)余命の話なので同じ年代で比べないと正確性を欠く(年齢のセグメントでなく全体で比べてしまうと、年齢のミックスが異なる影響を受ける)
2)ある程度若くて合併疾患もまだそれほどない年代のため、普通に手術するであろうことが予想される
3)上記の条件をやはり満たす40歳代よりはn数が多い