不可能を可能にする:脊椎の転移巣を取り除く金沢大の驚きの術式

泌尿器科学会のランチョンセミナーで腎がんの脊椎転移の手術について、金沢大学整形外科学・村上英樹准教授の非常に興味深い話を聴くことができました。

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脊椎、つまり背骨への転移は、腎がんだけではなく、乳がんや前立腺がんなど他のがん種でも発症します。不思議なことに他のがんでは放射線治療が有効ですが、腎がんはあまり効かないらしいのです。

 

とはいえ、脊椎に転移してしまうと、痛みと麻痺でADL(身体の活動性)が大きく損なわれてしまい、予後も芳しくありません。

 

なのでできれば転移巣を取り除く手術をしたいところですが、これがかなり高難度。というのも、背骨の真ん中には孔があって、その中に傷つけてはいけない神経の束が縦に走っているからです。

 

旧来の手術は、背骨に孔を開けて腫瘍部分を「引っ掻き出す」やり方くらいしかできませんでした。

 

でも当たり前ですが、そんなやり方では腫瘍を綺麗に取り除くことができませんし、引っ掻くことでむしろがん細胞を周囲に広げてしまうため、治療成績も上がりません。

 

そこにまったく新しい術式「腫瘍脊椎骨全摘術」が登場します。 

  ■「CLOSE UP NOW! 世界が驚愕した高度先進医療を展開し、最後の砦として、最高・最善の治療に挑む」(金沢大学附属病院整形外科ホームページ)

    

真ん中の神経を傷つけないように、糸のこぎり(!)を背骨の内部に通して外側に向かって切り出す、というやり方なのだそうです。(上下2カ所で半周ずつ切ってパカっと切り出すイメージですね)

 

そして、切り出した腫瘍骨は、冷凍してがん細胞を完全に死滅させてから元に戻す。自己組織を使うことで早期の修復が可能になる、と。

 

術後の成績も極めて良好で、まったく脚を動かせなくなってしまったような患者さんが元気に普通に歩けるようになり、何年も元気に過ごされているという症例が何件も出てきているようです。

 

よく整形外科は「大工」に喩えられるのですが、いやはやこれはたしかに「名工」の仕事です。

 

ちなみに、腎がんの場合は一度放射線を当ててしまうと、後々手術で切開した場合に傷口がぱかっと開いたまま閉じなくなってしまうリスクがあるらしく、「どうか放射線治療はしないままで紹介してください」と村上先生は強調されていました。

 

この新たな術式、最初は金沢大学だけでしかできなかったようですが、今では全国でも数カ所の病院で同じ治療が受けられるようになってきているとのこと。

 

外科医というと最近、千葉県がんセンターや群馬大病院などネガティブなニュースが流れていますが、こうした素晴らしい仕事をされている医師もいるのだということも是非知って頂きたいと思います。