本物の免疫療法と偽物の免疫療法
こともあろうに、天下の日経ビジネスから「いかがなものか」という記事が出てきました。
本メルマガで何度か紹介しているPD-1阻害剤の登場に伴い、「免疫療法」を怪し気なものまで一緒くたににされるような状況を危惧していたのですが、まさか日経ビジネスのような優良コンテンツを出す媒体から出てきたとは絶句です。
この記事、「テラ」という企業とその樹状細胞ワクチン製品の宣伝に化してしまっています。
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—他のがんワクチンと比べた利点は。
矢﨑社長:一般的ながんワクチンは、抗原を体内に直接注射する。ただ、がん患者では免疫機能そのものが低下している場合も多く、がん細胞を効率よく攻撃できないことがある。これに対してバクセルは個々の患者ごとに細胞を加工するため、樹状細胞を確実に司令塔として働かせることができる。ステージの進んだがん患者にも有効性が高いと考えられる。
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「テラ」はJASDAQにも上場していますし、この記事を見たら一般の方には良質なバイオベンチャー企業に思えるでしょうし、患者さんやご家族にとっては使ってみたいと思われてしまいそう。
でも、彼らのHPを覗いて、「有効性が高い」と唱える根拠となるデータを見てみると、ほんまにこんなんでええんやろか???、という内容のオンパレードなんです…
・こけおどし1:「8,900症例もの実績」
自分たちの息のかかった契約医療機関でいくら使われてきたからといって、有効性とは何の関係もありません。
・こけおどし2:「米国の学会誌「Pancreas」に掲載された論文」
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セレンクリニック東京において難治性として知られる膵臓がんに対して樹状細胞ワクチン「バクセル®」と抗がん剤を併用した治療で、49例中17例において、がんの消失・縮小・進行停止といった反応が認められ、約3割の患者さんに効果が認められたことが、報告されています
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とのことですが、原文のアブストラクトを見てみると、いずれも進行すい臓がんでは標準治療薬になっているゲムシタビン(ジェムザール)やS-1(ティーエスワン)との併用での話です。
ということは、標準治療薬が効いているのかバクセルが効いているのかわからず、バクセルの有効性を示すものではありません。
・こけおどし3:「樹状細胞ワクチン「バクセル®」を受けられた患者さんの治療例」
いや驚きました。ここまで堂々と「使用前」「使用後」みたいな比較写真を載せること自体、医療用医薬品(候補)として不適切だからです。しかも、ここに出ている2症例はいずれもやはり他の抗がん剤との併用例。厚生労働省の方々は、こういうのを放っておいて頂いては困ります。
樹状細胞ワクチンによる免疫療法は、受ければ「うん百万円」という高額な治療費がかかり、なおかつ有効性を裏付ける信頼度の高い科学的根拠はまだないのが現状です。
ということで、免疫療法には本物と偽物(少なくとも今のところは)がありますので、どうか皆さま気をつけてください。