「非」推薦図書:「がんが自然に治る生き方」
先日、Facebookのタイムラインで↓の記事が流れてきました。
医師も認めた「がんが自然に治る9つの習慣」 ケリー・ターナー博士に聞く【1】:PRESIDENT Online - プレジデント
(PRESIDENT Online)
新聞上で書籍も大きく広告されていたのも思い出し、本記事で紹介されている↓を購入しました。
■「がんが自然に治る生き方」(ケリー・ターナー著、プレジデント社)
まず、書籍がプレジデント社の出版ということで、前述の記事はかなりバイアスがかかっていますね。
まあそこはご愛嬌として、この書籍の内容は、基本的に↓の論文が基になっています。
この論文では、医学的ながん治療を行なわずして、もしくはがんを消失させるには不十分ながん治療しか行なわない状態で、がんが完全もしくは部分的に消失した状況を、「劇的寛解(Radical Remission )」と呼んでいます。
そして、「劇的寛解」を経験したと論文等で確認された11カ国50人の”治療者”に加え、20人の「劇的寛解」経験患者をインタビューした結果から、比較的共通して見られた項目を、「劇的寛解を導く6つの要素」として紹介しています。
その6つとは、、、
***
・食生活の変更:肉類、砂糖、乳製品、もしくは加工食品などは摂取を減らすか止める。野菜、果物、雑穀、もしくは豆類は増やす
・精神の深耕:がんを無くすために内なるスピリチュアルな力を呼び覚ます
・「幸福力」の増強:健康を取り戻すために、愛する力と幸せを感じる力を強める
・抑圧された感情の解放:思考-身体-精神を結びつけるシステムを邪魔している感情を解き放つ
・サプリメントの服用:解毒作用もしくは免疫力増強を狙い、ハーブやビタミン剤などを用いる
・直感の活用:治療選択を行なうにあたり自らの直感を信じる
***
うーん、なんだか、頭の中が「???」とクエスチョン・マークで一杯になってきました。
色々ありますが、大きな問題は3つあります。
<問題点1:調査対象の大半を占める”治療者”50人の選び方が極めて恣意的になっている>
著者の言うところの「劇的寛解」を経験している人は、れっきとしたがん治療医にもいます。ですが、なぜかそちらにはインタビューせずに、いわゆる「代替療法」とか「統合医療」専門でやっている「治療者」たちばかりをピックアップしています。
そうやっておいて、その人たちに「何が劇的寛解を導いたのか?」と質問したら、上記のごとく、いわゆる代替療法で使われそうな手法が前面に出てくることになるに決まってますよね。
<問題点2:もしこの6つが本当に「劇的寛解」経験者に比較的共通してみられる現象だとしても、それをやったら劇的寛解を得られる確率が上がるかという話はまったく別問題。>
再発/進行がんになった患者さんはかなり色々なことにトライしますので、上記の6つの要素を程度の問題はありますが、何らかの形で実践している人は相当数いると考えられます。
ということは、こうしたことをやった人とやっていない人で比較しないと、本当のところはわかりません。
この点、Turner女史は(近藤誠医師とは違い)自らの説がまだ「仮説レベル」であることは認めていますし、上記のような比較試験をしないと本当のところはわからないことも認めています。
でも、書籍を読み進めていくと、「エネルギー治療で末期がんが治った」とか「一日に40粒のサプリメントを飲んでがんが無くなった」とかの怪し気な話のオンパレードで、仮説と言っておきながら「それをやれば奇跡が起きる」と誤認させかねない内容なので、ちょっと信用ならないんですよね...
なんか結局のところは「売らんがな」が本音で、「科学的にやっているように見せるポーズ」をとっているだけにしか見えません。
<問題点3:6つの要素がどれもアバウトすぎる>
例えば一口に「サプリメントの服用」と言っても、サプリメントの種類なぞ山ほどあるわけで、そのうちの何が良いということまでわかりません。おそらく、何でも良いんですというのが答えでしょうが、それはちょっと無責任でしょう。
「精神の深耕」とか「抑圧された感情の解放」とか、何をどの程度やればそういった状態になったとなるのかもわかりません。
なので、仮に仮説が正しかったとしても、実践するのに真の意味で役立つかというとかなり疑問です。
ということで、ターナー女史の著書が気になっている方、購入するほどの価値はありませんよ。