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遺伝子変異の時代の”深化”を見た癌治療学会

先週は、京都で癌治療学会に参加してきました。生憎の雨続きだったのですが、学会期間中というのは朝から暗い部屋の中で講演を聴く時間が多いので、外の天気はあまり気にならないものです。夜にぷらぷら外歩きをするのには、雨が止んでいて欲しくはあるのですが(笑)

 

個別化医療の進化>

分子標的薬の登場もあって、がんの薬物治療は本格的に「個別化医療」の時代に入ってきていますが、この「個別化医療」が特に進展している分野は「乳がん」と「肺がん」です。今回の癌治療学会では、この個別化医療の進化と患者さんにとっての意味を考えさせられたセッションがそれぞれのがん種で1つずつありました。

1つ目が「肺がん治療の最前線:肺がん治療個別化の展開と新たな問題」

進行/再発の肺がん(正確には非小細胞肺がん)は、EGFR遺伝子変異があるタイプ、ALK遺伝子変異があるタイプ、どちらの遺伝子変異もないタイプという3つのタイプにより、薬での治療法が異なってきます。EGFR遺伝子変異のあるタイプでは、ゲフィチニブ(イレッサ)やエルロチニブ(タルセバ)というEGFRチロシンキナーゼ阻害剤と呼ばれる類の薬が、必ずと言って良いほど使われます。また、ALK遺伝子変異のあるタイプでは、クリゾチニブ(ザーコリ)がキードラッグです。

EGFR遺伝子変異タイプ、ALK遺伝子変異タイプは、非小細胞肺がんのそれぞれ、30%、4%程度いると言われています。どちらのタイプにも属さない場合は、今のところ一括りにされていました。その中に実は、RET、ROS1、BRAFなどの遺伝子変異の存在が確認されたという話がこのセッションの中で出てきました。

まだ臨床研究段階ですが、これらの遺伝子変異に対応できる開発中の薬剤もあるということで、現在、LC-scrum Japanという枠組みで日本全体で医師主導で臨床研究を推し進めているとのこと。肺がんの研究は、日本が世界で最も進んでおり、世界に先駆けての臨床への展開が期待できますし、患者さんにとっても、大いに朗報です。

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<病理医によって診断も変わる???>

さて、自分のがんが「何型」なのか、クリアカットにわかれば良いのですが、実はプロが見ても判定は結構難しい部分があるという話が同じセッションで出てきました。

たとえば、ALK遺伝子変異型の判定には、手術で取り除かれたがん細胞顕微鏡を覗いて染色された細胞の様子を観察する手法が一番わかり易いのですが、必ずしも手術検体が取れるとは限らない(手術が適応でないケースもありえます)ので、結局、穿刺を行なってFISHという検査手法で調べることになったりします。しかしながら、FISHで判定すると免疫染色での判定とは異なる判定が一定割合で出てきてしまうようです。本当はALK陽性なのに陰性と判定されてしまうとなると、本来受けられたはずの効果の高い治療を受けられなくなってしまうことになります。

また、これはALKとは別の話で出てきましたが、病理医のプロ中のプロが観ても、見解が分かれる型というものがあるようです。ということは「普通の病理医」だったらなおさら鑑別のレベルに差があるわけで、病理医や手法によって診断が変わってくる、ということがあり得るのです。患者にとっては、今後病院選びをしていく中で、病理医のレベルまで考えておかないといけない時代になってきているとも言えそうです。

 

<がんの“性格”が変化する?>

もう一つ厄介な話が出たセッションが、「乳がん治療の最前線:進行・再発乳がんの治療戦略」でした。

乳がんは、ホルモン感受性の陽性/陰性、HER2遺伝子変異の陽性/陰性で、やはり薬での治療が大きく異なってきます。そのホルモンの感受性やHER2遺伝子変異の陽性/陰性の判定が、時が経つと変化することがあるという話が出てきました。治療等によりがんの“性格”が変わってしまうからなのか、それとも実は“性格”が変わったわけではなく検査で採取する部位に変異がまだらに存在しているからなのか、本当のところはまだ謎に包まれているのですが、性格が変わってしまったという仮説はかなり有力なようです。

ということで、一度下された診断を鵜呑みにしないこと、時間が経った際にもう一度がんのタイプを診断するための検査があり得ることを、患者としてもわかっておく必要があります。乳がんの場合、肺がん以上に投与される薬が大きく変わってくるためです。

 

 

これから先も、様々ながん種で次々にがん発生の主因となる遺伝子変異が明らかになり、治療もどんどん複雑化していくことでしょう。ひょっとしたら、がんの種類が、「乳がん」「肺がん」といった身体の部位で表されていたのが、「HER2がん」「ALKがん」のように、がん発現のドライバーとなる遺伝子によって表される時代がそう遠くない先にくるのかもしれませんね。