出でよ、腫瘍内科医~泌尿器科系がんでの2つの不思議~

先週、札幌で開催されていた泌尿器科学会に行ってきた。

毎年、この学会では高校の同級生の泌尿器科医2人と盃を交わす機会があるのだが、今年も佳いお酒が飲めた。泌尿器科学会はいつも4日間と妙に長丁場なのだが、こうした時間を取れるという意味ではありがたい日程だ。

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<新薬ラッシュの腎細胞がん、治療が進歩していない膀胱がん>

泌尿器科のがんで改めて不思議だなと思うのが、腎細胞がんでの異様なまでの新薬ラッシュと膀胱がんの停滞ぶりだ。

患者数で言えば、腎細胞がんが1万人強に対し、膀胱がんは約2万人。腎細胞がんの方がマイナーな癌種だ。しかし、ここ5-6年の間に日本で出た新薬は、腎細胞がんが5剤(ネクサバール、スーテント、アフィニトール、トーリセル、インライタ)の分子標的薬に対し、膀胱がんはゼロ。同級生曰く、「膀胱がんって俺たちが医者になってから基本的に治療体系は殆ど進歩していないよね。」というくらいだ。腎細胞がんは今後もまた新薬が登場する見込みだが、膀胱がんは何もない。

ちなみに、この領域でメジャーな癌である前立腺がんも新薬が長いこと出ていなかったが、今年から来年にかけて新規のホルモン剤が複数出てくる見込みだし、その後も開発薬剤が目白押しだ。何だか膀胱がんだけ、すっかり取り残されてしまっている。

 

<新薬がバンバン出ているのに腫瘍内科が関わらない不思議>

もう一つ不思議に思うのが、この領域での腫瘍内科医の存在感の無さだ。

今回の学会では、「新しい治療戦略シリーズ 転移を有する腎癌」という非常に興味深いセッションがあった。前述したように腎細胞がんの領域では分子標的薬が短期間に5剤登場したこともあり、旧来のサイトカイン療法も含め、確立された治療体系が浸透しているとは言い難い状況だ。その中で、これらの薬剤をどう使っていったら良いかというディスカッションがされていたのだが、これが全部泌尿器科医だけで議論されていた。

確かに、泌尿器科系の腫瘍内科医はいないということもあるのだが、これだけ治療体系が複雑化し、なおかつ遺伝子変異レベルでの個別化医療を考えていく必要がある中で、がん薬物治療のプロたる腫瘍内科医のインプットがゼロ、というのは、やはり異常な状況だ。

肺癌領域のように、内科系と外科系が切磋琢磨することで治療体系を進歩させていく理想的な姿に、この領域も一日でも早く近づいていくことを期待したい。

 

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さてさて、このブログの更新も随分と間延びしてしまいました。今後、頻度を上げて週1程度には書いていくので、また改めてお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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