「薬のネット販売、国の敗訴確定」⇒本当の仕事はこれからだ!
皆さま、明けましておめでとうございます。
年明け早々、良いニュース。
“薬ネット販売、国の敗訴確定=規制省令「違法で無効」―全面解禁に・最高裁”
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130111-00000085-jij-soci
この裁判について、昨年5月に引っ越し前のブログサイトに書いた論考が重要なので、敢えてこちらでも再掲する。
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「一般用医薬品のインターネット販売訴訟ニュースに見る次代への扉」
一般用医薬品のインターネット販売訴訟、先日、二審で国側が逆転敗訴し、いわゆる第一類・第二類の医薬品のネット販売規制が無効との判決が出た。結局国は上告することになってしまい、まだ法廷での闘いが続くことになる。
正直なところ、「違法」か「適法」かというのは極めて法律的解釈の問題なので自分がどうこう言える部分ではないし、最終的な判決がどう転ぶかは予断を許さない。しかしながら、あるべき姿はどちらなのかということについては明確に「ネット販売を推奨すべき」と考えている。
<ネット販売への反対意見は誤解・誤認に基づいている>
ざっと眺めてみて、世の中の一般用医薬品のネット販売への反対意見は、主に下記の主張に集約される。
1)一般用医薬品でも重い副作用が起こることがあり、専門家の指導の下で使う必要がある
2)患者が自己判断しての誤用を防ぐためにも、薬剤師との双方向の情報交換が必要。医療機関の受診を勧告することも薬剤師の重要な役目。
3)インターネットだと匿名性があるので、濫用のリスクがある
実はここに出てくるような問題は、リアルな対面販売だから防げるという話ではないし、むしろネットだからこそ、確実に対応できる問題ですらある。
まず、1)の一般用医薬品でも重い副作用が起こることがあるという話。これは事実としては「Yes」だ。風邪薬であれど、スティーブンジョンソン症候群という重篤なアレルギーの一種を引き起こすことが、まれにだがある。ただし、これは対面販売していても防げる話ではない。相互作用の防止という観点もあるが、これは後述するようにむしろネット上でデータを取得した方がずっと確実に防ぐことができる。
2)について、薬剤師(販売側)との双方向の情報交換が必要という話も、やはり「Yes」。患者の症状を聴いて、適切な薬剤をおすすめしたり、むしろ医療機関の受診をおすすめしたりというのは、現状のリアルで十分にされているとは言い難いが、ともかくあるべき姿ではある。でも、これも「ネットだからできない」話ではなく、むしろ「ネットだからこそできる」話だ。
3)はネットをよくわかっていない人が感情的に言っているだけのことで、実際はむしろ逆。決済時に身元の確認ができる分、ネットの方がリアルよりむしろ匿名性は低いと言える。
<PHRの時代への扉>
ではどのような形態でのネット販売だと、むしろリアルより「ベター」となるのか、の仮説を示す。
まず、ネット購入をしたい人は、クラウド上にID付きで自分の服薬状況や身体状況等を書き込む。
1)現在困っている、もしくは時折困ることのある症状
2)服薬状況(あれば薬剤名)
3)過去のアレルギー歴
4)妊娠の可能性有無
5)連絡先
6)利用クレジットカード
あたりが必要な情報となろう。
更に、どんなサイトで一般用医薬品を買い求めようとも、必ず上記のIDとひも付けが必要とし、薬剤の購入履歴が自動的にIDにひも付いて記録されることにする。
利用者にとっては多少面倒くさいけど、まあ実際に店舗に出向く時間を考えればさほどのことではない。逐一書き込まなければいけないデータは1)と2)くらいだ。
実はこうすることより、前述したリアルでやりきれそうにない(実際にやっているとも思えない)、次のような問題解決ができる。
・服薬中の他の薬剤との相互作用の可能性のない薬剤を提示できる
・過去のアレルギー歴のチェックができる
・睡眠薬の大量購入等の怪しい購入履歴がはっきりする
・数日後にフォローすれば薬剤の効き目や副作用の有無も確かめられる
これだけのことを対面販売で逐一やることはまずできないが、ネットなら十分可能だ。
国が「規制」すべきは、上記のようなプロセス抜きで一般の商品と同じような感覚で販売することであり、インターネット販売そのものではない。
更に、こうした動きが日本の医療関連のネット事業を次のレベルに押し上げる起爆剤になると考えている。いわゆるPHR(Personal Health Record)関連の事業、期待は高いものの世界を見渡してみてもなかなかこれといったものが出てきていない。このビジネスの一番の難題は、利用者が自分の健康関連記録(Health Record)を自分で打ち込むインセンティブをどう創り出すかにある。一般用医薬品のネット販売規制緩和は、上記のようなプロセスを通じて「自分情報のインプットのインセンティブ」をうまく創り出してくれるのだ。
<最後に>
本件の本当の論点は、「インターネットで販売することがOKかどうか」ではなく、「インターネットで販売するうえで安全性をどのように担保していくべきか」なのだ。「インターネット販売だから安全性が損なわれる」という非論理的な主張を退けるためのエネルギーと時間があまりにももったいない。もっと、「次の時代のモデルを創る」仕事に早く移行しようではないか。
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ということで、裁判結果が出たことで、ここからようやく「本当の仕事」が関係者にとって始まる。日本発の新しいサービスが出てくることを期待したい。