ワタミの事件から見えてきた世の中の3つの仕組み〜社会主義と資本主義と日本主義〜

ワタミの従業員過労死の裁判、ネット上ではオーナーである渡邉美樹さんに対するバッシングが拡がっているらしい。ワタミが若手従業員を追い込むだけ追い込んで使い捨てる「ブラック企業」であるかのような話も拡がっているようだが、私自身は、渡邊美樹さんの今までの言動や自分が実際に会った時の印象からそこまで酷い人とは到底思えないが、該当事件の当事者でなければわからないことがある中、ここでは論評は控えたい。


一方、この事件が日本のサービス業の特質を改めて想起させてくれたことは確かだ。
友人のFBでの投稿から知った↓のBLOGOSの記事が最たるものだろう。
「『ブラック企業と旧日本軍』(ワタミ化と東南アジア化)」(http://blogos.com/article/32512/


この記事の中で、非常に本質を突いていると感じたのが、次の下りだ。


しかし我が国の外食産業サービスは独自の進化を経ている。低価格化の価格競争に勝つため、さらに物的コストを必要としない従業員の『お客様サービス』を上乗せして対抗しようとする。その結果、低価格・低賃金なのに過剰サービスという単純な行動ファイナンスでは解析不能な現象が起きているのだ。何故、解析が不能なのかというと『従業員のモラルハザード』という低賃金長期労働に対して諸外国では不可避に起こるべき事態が、我が国では全く起きていないからである。ここで言うモラルハザードとはレジの金銭を盗むことなどではない、時々サボったり、手を抜いたり、休んだりする個々の労働者の適度な息抜きのことだ。それどころか完璧に安定した様相すら見せている。これをわが国独自のガラパゴス生態系『ワタミ化』と銘銘したい。


「本質を突いている」と感じるのは、この話が「外食産業」に限らないからだ。この論考を少し発展させて図示してみたのが↓。


外食産業だと左上にあてはまるところが殆ど思い浮かばない。右上は日本でも海外でもいわゆる「高級レストラン」はここに入る。そして、左下は海外のチェーン店一般(マクドナルドとかタコベルとか)や中華料理屋がこれだろう。右下に日本のチェーン系外食産業全般があてはまる(ワタミ、マクドナルド、ドトール、松屋、と枚挙にいとまがない)一方で、海外でここに入るものがどうも思い浮かばない。


外食業界以外でもこの枠組みで見てみると面白いことがわかる。ホテル業界なら、↓のような感じ。右下はいわゆるチェーン系のビジネスホテルがこのレベルにあると思える。5000-7000円くらいの価格帯であそこまで顧客満足度を高められているのは世界的に見ても珍しい。

次は航空業界。左上の典型がノースウェスト、ユナイテッド、アメリカン等の老舗のエアライン。右上はJAL、ANA等のアジア系の老舗のエアライン、そして左下が最近流行りのLCC。右下?「下」までは行かないが、スカイマークやエアドゥなどの新興日系企業はちょっとここの範疇に近い。今後もサービスをあまり落とさずに更なる低コスト化を進める「独自の発展」を遂げる可能性は結構あると見ている。


さてここまでくると、↓の構造が見えてくる。

右上から左下にかけて、値段とサービスが相関するのが「資本主義」。左上のセグメントは、供給者側がふんぞりかえって程度の悪いサービスしか提供しないという、まさに「社会主義」。このセグメントはいずれ、より良いサービスかより低い価格のものに代替されていく。なので、現存しないものが多い。米系のエアラインはいずれも一度は破たんしているし、今でも存亡の危機にある。日本で言えば、かつての「国鉄」がここに入るだろう。


そして右下のセグメント。ここではサービスが低価格で提供され賃金も安いはずなのに、顧客満足度を徹底追及されている。ここがまさに日本独自の「ガラパゴス」というわけで、「日本主義」と呼んでも差し支えないだろう。


前述のブログエントリーでは、組織内部の「村的な同調圧力」を主因として挙げているが、私は組織内の圧力というよりも、顧客からの期待値の要因の方が強いと思う。自分が顧客の立場となった時に何を求めるか忖度できるので、相応のサービスを提供しなければという意識を皆持つし、システムとしてもそこに対応していくということだ。


「社会主義」が「供給者(生産者)至上主義」だとすると、「新日本主義」は「顧客至上主義」。資本主義も突き詰めていくとこのセグメントに到達するというのが私の考えだ。いわゆるブラック企業は長続きしないが、「仕組み」によって従業員の満足度も維持しながら高品質のサービスを提供している企業も外食産業にはたくさん存在する。「外食産業」こそが日本が今後発展を期待できるセグメントだと思う所以でもある。


最後に、この構造がまったくもって逆転しているサービス業が1つある。それは銀行業界だ。

オンライン銀行が次第に普及していく中、よほど思い切った構造転換をしない限り、都市銀行の未来は旧来型の生保・損保や証券会社と共に非常に厳しいものであることは間違いなさそうだ。