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マスコミが薬害をつくってはならない〜あさイチの「がんワクチン療法最前線」への違和感〜

医療への視点

今週初め、NHKの朝のテレビ番組「あさイチ」をたまたま目にしたら、「驚き!がんワクチン療法最前線」という題が目に飛び込み、ちょっと見逃せないぞということでついつい全部見てしまった。動画に関しては、NHKオンデマンドを見るしかなかろうが、文字ベースでの主な内容は↓で見ることができる。
http://www.nhk.or.jp/asaichi/2012/02/06/01.html


番組の中では、いわゆる「著効例」が2例紹介されていた。「すい臓がんで肝臓にも転移し、もう治療法がないと言われた30代の主婦が家族旅行をするまでに回復」「『余命2カ月』と言われ、副作用で抗がん剤を断念し絶望の淵をさまよった40代男性が驚異の回復」「しかも副作用が殆ど無い」と、普通の人が見たら、完全に「夢の治療法」と受け取れる内容だった。


実際、この日の番組の後、私の医師関連の繋がりのタイムラインは、ワクチンに関する問い合わせが一日中続いたというような話がそこかしこに転がっていた。


番組のゲストとして、上記の膵臓がんの事例で使われたワクチンの開発者である中村祐輔先生が出演されていた。「番組で取り上げられたのは特に効果があった人たちであって、全員に効果があるわけではない」「全員が無料の治験に入れるわけではなく、条件に適合した方でないと入れない」「薬の開発のためには、製薬会社にも入ってもらって治験を行ない、承認を受けるという数年はかかるプロセスがあり、ここで国の厳しい基準をクリアしなければならない」「ワクチン治療にも色々とあり、高額の治療費を取って効果と安全性が実証されていない治療法を提供するのは私はどうかと思う」というような感じで、なるべくバランスはとろうと話はされていた。


しかし、がん患者さん、それも再発して治療の手立てが限られてきたような方の「藁をもすがる」気持ちになってみたら、あれだけ劇的に効果があった症例を見せられたらこれでも不十分だったろう。実際、医療者でないゲストの方々も、完全に前のめりになっていた。


おそらく、"インチキ"系のワクチン療法やっている医療機関にとっては、これほど素晴らしい番組はなかったろう。


「まだまだ”実験段階”の治療法。同じように期待された薬でも後から致死的な副作用が沢山出て開発を中断せざるを得なくなったようなケースは山ほどある」「治験も目指さないようなワクチン療法も世の中に出回っており、そういうものと一緒にしてはいけない」くらいの話は、中村先生もしくは他の誰かの医療者の口から出てきているものを見せるべきだった。


今回のような報道がいかに大きなリスクを孕んでいるかというのは、我々はイレッサの事例で十分に学んだはずだ。(イレッサの発売当初に頻発した間質性肺炎の死亡例は、殆どが「副作用が軽いが効果抜群の夢の新薬」であると患者も半素人の医師も勘違いした結果生まれたものだった。)


中村先生が進められているワクチン研究は素晴らしいと思うし、圧倒的なスピードで治験も進んで行って欲しいと切に思う。だが、それくらい素晴らしいポテンシャルがあるものだからこそ、大事に育てなければ、なのだ。


NHKのあさイチ制作関連の人々には、治験前の臨床試験の段階で、劇的に効果があった症例のみを番組で放映するという事の重みを感じて頂きたい。マスコミが薬害をつくってはならないのだ。