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患者視点で考える開発治験のデザイン(1)

医療への視点

昨年の肺癌学会総会のプレナリー・セッションで非常に興味深い議論が戦わされていた。非小細胞肺がんEGFR陽性症例に対しての一次治療薬としての有用性をゲフィチニブ(イレッサ)が明確に示したわけだが、順番としてゲフィチニブ(イレッサ)を先に使うのが良いのか後に使うのが良いのか、という話だ。


結構大事な話だと思うのだが、「有効な薬剤を使いきるという観点で先に使うべき」「キツい治療(化学療法)は体力のある早期にやった方が良い」などいかにも「ありそう」な意見が交わされていたものの、結局のところここに関しては明確なデータも無いために、どうにも消化不良なまま議論が収束した。(やり取り自体は、漫才の掛け合い宜しくかなり白熱して面白かった事は面白かったのだが)


その「消化不良感」が一体何から来ているのかを深く考えさせてくれるブログエントリーを上野直人先生のツイートから知った。「Gooznews.com」の1月2日付けエントリー「Final Thoughts from A Dying Cancer Researcher」だ。非常に重要な言説なので、和訳して記しておく。




(以下、筆者による翻訳転載)
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「あるがん研究者の”人生最期の考察”」


私は先日、イタリア・コクラン・ネットワークの編集長アレッサンドロ・リベラティが骨髄のがん、多発性骨髄腫で亡くなったことを耳にした。コクラン・ネットワークは、医学的な介入比較試験を行なう全世界的な枠組みだ。「ランセット」への最近の寄稿の中で、リベラティは自身の病気に対し最良の治療選択肢が何かを知るために行なった文献検索について述べている。


私は、「ClinicalTrials.gov」に出ている多発性骨髄腫の疫学研究について調べてみた。2011年7月31日時点で「多発性骨髄腫」で検索してみると、1384の文献がヒットした。この内、107がフェーズ2または3の比較試験。しかしながら、この中でOS(生存期間)をエンドポイントとした研究はたった58だけ。しかも異なる薬剤や治療戦略の”ガチンコ”の比較試験は一つもなかった。

多発性骨髄腫は、いわゆる分子標的薬に感受性が強いと製薬会社の研究者たちから考えられているがん種の1つで、開発治験中の薬剤もいくつかある。しかし、そうした治験は既存の治療法に対する優位性を証明するようなデザインになっていない。大抵の場合、既存の治療法に上乗せされる形で進められる。ということは、患者にとっても医師にとっても患者の生存のチャンスを最大化するためにどういった条件ではどの薬剤を先に使うべきかということについては、まったく闇に包まれたままということである。


リベラティはその最期のコミュニケーションの中でこんな風に結論付けている。「骨髄腫の患者アドボカシーグループは、より良い治療を願って開発研究に対して巨額のサポートをしている。公的なサポートを得ている彼らは、患者利益に従って開発アジェンダの再定義を要求できる強い立場にある。


確かに患者団体はそうでなければならないが、果たしてそうなるだろうか?この領域での米国のNo.1患者アドボカシー団体である「多発性骨髄腫開発財団」の報告書をさっと閲読してみると、巨額の資金を製薬会社に頼っていることがわかる。すべて多発性骨髄腫の治療薬に関わる会社で、ミレニアム(ベルケイド<ボルテゾミブ>)、オニキス(カルフィズノミブ、現在治験中)、セルジーン(レブリミド<レナリドミド>)、といった会社が昨年度それぞれ、110万ドル、300万ドル、120万ドル寄付している。全体の予算が2570万ドルの中でだ。抜きん出て最大の寄付500万ドルはウィリアム・ボーズという82歳のシリコンバレーのベンチャーパートナーズのゼネラル・パートナーからのものだ。Forbesによれば数年前まで全米Top400の大富豪の一人。彼は、長きにわたりバイオテクノロジー企業への投資家でアムジェンやエクソーマといった企業でベンチャー投資に成功して、取締役に名を連ねている。そしてエクソーマはリンパ腫の治療薬を開発中だ。


もし製薬企業のせせこましい開発アジェンダこそが問題だとするならば、基本的に製薬企業によって財政を支えられている患者アドボカシーグループが、そのアジェンダを変えるべく有効な活動をするだろうか?私はあてにできないと思う。

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次回、このエントリーに対する考え方を示したい。