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オンコロジー・マーケッターが考えるべき“戦略的調査”

(本エントリーは、9月に筆者がOncology Japan 2012のメルマガ向けに寄稿したものと同じ内容で、製薬マーケッター向けの内容です)

 

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プロマネが犯しがちな2つの過ち> 

医療用医薬品において、製品のマーケティング戦略の立案が“プロマネ”の仕事の「一丁目一番地」であることは、論を待たない。しかし、マーケティング戦略の立案は形式知化しきれない部分も大きく、一朝一夕でプロマネが良い戦略を描けるようにはならない。

筆者は、過去12年間延べ90ほどの製品戦略の立案・評価に関わってきているが、その経験の中でプロマネが犯しがちな典型的な過ちが2つあると考えている。

 

過ち1:検証無きまま戦略化してしまう

戦略はあれども、その根拠が薄弱なケースがよくある。たとえば、「二次治療で競合薬AAをxxxというメッセージでひっくり返しにいく」という戦略を立てているプロマネに、「なぜ一次治療でBBを叩きに行かないのか?根拠は何かあるのか?」と聞いてみると、「二次治療以降にとっておきたいという先生が多い」「現場の声を聴くとAAの方がひっくり返しやすそう」などという答えが返ってきたりする。

医師(特にKOL)の言うこと、営業現場の言うこと、はあくまでも「意見」でしかない。しかも自分たちの都合に沿うように事実を歪曲して伝えてくるケースもしょっちゅうある。プロマネとしては冷徹な目で、それが本当に事実に基づいた話なのか、定量化してみるとどの程度の話なのか、他にもっと大きなチャンス(改善ポイント)はないのか、を構造的に考え抜き、自分なりの仮説を立てて検証していく必要がある。

 

過ち2:現場で遂行不能の複雑な戦略をつくる

戦略立案に手馴れてくると、顧客セグメンテーションを意識するようになる。そうすると、Aセグメントにはメッセージ1を、Bにはメッセージ2を、Cにはメッセージ3を、Dには・・・、という具合にやたらときめ細かい戦略を立てるプロマネが出てくることがある。

だが、どんなに精緻な分析をして机上では正しい答え(戦略)を出したところで、複雑で難しい戦略は所詮現場では実行されない。筆者の経験上、セグメント別にやることが4種類以上になったら、現場では絶対に理解されないし実行もされない。

また、戦術も含め現場にコミュニケートする資料はできるだけシンプルに薄くすべきだ。筆者はかつて、「俺が100ページにわたる渾身の製品戦略資料を作ったのに現場の連中は全然読みやしない。」と憤慨する同僚の言葉を聞いたことがあるが、「それは100ページにするあなたが悪い」のだ。

 

<“戦略的調査”がもたらす価値> 

上記の2つの過ちのうち、より多く見かけるのは1番目の過ちだ。この過ちを犯さないために必要なのが、「戦略的調査」である。

戦略的調査とは、自ら立てた戦略仮説を検証する調査で、仮説に応じて医師が対象になったり患者が対象になったりする。また、検証で求めるスピードや精度に応じて、手法も変わってくる。

一例を挙げよう。オンコロジー製品だと少々差し障りがあるので、別領域のものとなることをご承知願いたい。

 

筆者が爪水虫薬Aプロマネに就任した時、競合薬Bに押され患者シェアが30%強まで落ち込んでいた。色々な理由が出ていたが、その中でも一番大きかったのは、「値段が高すぎる」で、これは医師からも営業現場からも上がっていた。確かに、皮膚科の窓口で1万円札が必要になる薬剤は滅多にないので気持ちはわかるが、薬価は如何ともし難い。 

一方で、Aの新しい治療法は1週間服薬して3週間休薬を3回繰り返しておしまい、というものなのに対し、Bは半年間毎日服薬を続けるというもの。患者さんにとってはメリットもあるし、自分ならまずAを選ぶ。そこで立てた1次仮説が「価格よりも治療期間の短縮化に価値を見出す患者が多いのに、医師はそのことに気づいていない」というものだった。

 

まず1次調査として、周囲の人10名程度に2つの治療薬の特徴(治療期間、価格、投薬量など)を説明し、どちらを選択するか聴取してみると、半数以上が治療薬Aを選んだ。一方、皮膚科開業医数名にインタビューしてみて、「価格」が間違いなく処方のボトルネックになっていそうなこと、薬剤の選択時に患者の意向は反映されておらず医師の忖度により決められていることがわかった。

そこで今度は2次調査として、Web調査会社のパネルで潜在患者と特定できた人200名に対して2つの治療法の選好度合を測った結果、5割程度が治療薬Aを選択した。

 

この一連の戦略的調査の結果立てた戦略は、「治療薬の選択を、医師ではなく患者にしてもらう」であったが、実際に実行してみると、多くの現場から「先生が、『こんなに患者さんが選ぶとは思わなかったよ』、と言っています」というような声が多数上がり、売上げも(他の打ち手の効果もあったが)3割アップした。

上記の事例で、もし筆者が現場や医師が言っていることを鵜呑みにしていたら、間違いなくこの戦略は編み出せなかっただろう。また、戦略的調査で示された根拠が無ければ、営業現場もこの戦略に首を縦に振らなかった。戦略的調査の価値はこのような形で現れるのである。

 

<オンコロジー領域で意識すべきは“プレミアム戦略”>

 医療用医薬品のマーケティング戦略を考える上で、筆者が基本と考える枠組みがある。それは、戦略を「市場拡大戦略」「競合戦略」「プレミアム戦略」の3つに大きく分けて考えるというものだ。

 

■市場拡大戦略:

自社製品が戦っている市場自体を大きくしていく戦略。DTCDirect to Consumer)を活用して潜在患者を受診させる、非薬物治療を薬物治療に切り替えさせる、などが典型的。原則として高シェアの薬剤を持つ「勝者の戦略」でもある。

■競合戦略:

いわゆる競合から患者(症例)数シェアを奪い取る戦略。オンコロジーの場合留意すべきなのは、1stLine2ndLineあたりでは、ラインごとに市場/競合は異なると考えて戦略を組むべきというところ。

■プレミアム戦略:

投与量を増やす、もしくは、投与期間(サイクル数)を延ばすことで、患者単価(一人の患者さんからあげられる売上額)を上げていく戦略。

 

筆者は、オンコロジー領域ではこの枠組みの中で特に「プレミアム戦略」が重要になると考えている。

オンコロジーでは潜在患者の比率は通常低く、「市場拡大戦略」が適用しにくい。また、ガチンコの戦いである競合戦略は、あえて強調しなくても大抵の場合強く意識される。

一方、副作用のマネジメントが難しい等の理由から、薬剤にとって理想的な期間(サイクル数)や投薬量(サイクルあたり)に達していないケースは頻繁に起きるが、その割にここでの改善は競合戦略ほどは意識されない。つまり、プレミアム戦略で改善の余地がかなりあるということだ。

 

プレミアム戦略のもう一つの利点は、既に自社の薬剤が使われている医師や患者に対する働きかけが主要施策となるので、競合が強くて自社が弱い医師に対して働きかけなければいけない競合戦略より、実は現場も取り組みやすいことが挙げられる。 

適切な副作用管理を行ない、治療に最適な期間(サイクル数)や投薬量(サイクルあたり)を実現することは、患者さんのベネフィットにも直結する。そうした意味でも、プレミアム戦略がより強く意識されるべき時代がきたと言えるのではなかろうか。 

 

<プレミアム戦略における戦略的調査> 

最後に、プレミアム戦略でどのような戦略的調査がありえるのかについて述べたい。

医師に対しては、インタビューでのデプス調査がカギになる。例えば、なぜサイクル数が短くなるのかの理由が、エビデンスを基に効果が十分と考えているからなのか、副作用マネジメントの具体的な手法に習熟していないからなのか、はたまた別の理由からなのか、インタビュースキルのある第三者が実際に会って掘り出してみないと、本当のところはなかなかわからない。

患者に対しての調査からも、良いヒントを得られる。自社の薬剤の服薬経験のある患者さんが、何が理由で途中で減量したり服薬中止したりしたのか、患者さんに聞いてみると医師のヒヤリングとはまた違った示唆が出てくることがある。服薬前の医療者側のムンテラ内容がどのようなものだったかにも、ヒントが隠されていることがある。

方法としては、Web調査会社のモニターや患者会というリソースを使うこともあるだろうし、仮説の抽出レベルであれば、患者ブログのポータルサイト「TOBYO」が提供しているDimensionsというような新しいツールを使うのも一考だろう。(Dimensionsについては、⇒のブログ記事参照されたい http://www.tobyo.jp/tobyoblog/2011/2099.html

 

最後に、本レポートがオンコロジー領域のマーケッターの方々にとって良きヒントとなり、プロマネの業務がより洗練された方向へ進化していくことを期待したい。

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