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緩和医療学会、変革中(2)

今日は、神戸で開催された緩和医療学会で感銘を受けた点、

 

・ついに患者(サバイバー)との本当のコラボレーションが始まった

・ついにがん治療医が主体的に緩和ケアを語り始めた

 

の後者について。

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この流れを強く感じたのが、「がんと診断された時からの緩和ケアの実践のために」というパネルディスカッションだ。「がんと診断された時からの緩和ケア」というのは、がん対策推進協議会の中で特に患者委員からの強い要望もあり、今般の新規計画の中でも明示的に表現された部分だ。こうした「旬」でかつ本当に必要と考えられるテーマセッティングがされたこと自体が、まずもって素晴らしい。

 

 

<「診断時からの緩和ケア」のキーデータ>

 

まずトップバッターとして、マサチューセッツ総合病院がんセンター(MGHCC)・サイコオンコロジー行動科学センター長のPirl博士が、自身とTemel博士との共同研究である、非小細胞肺がん患者の早期緩和ケアの介入調査試験と、自施設での診断時からの緩和ケアの実践例について発表された。

 

2010年にNEJMで発表された介入調査試験の方は、今や診断時からの緩和ケアに欠かせない「キーデータ」である。非常に有名なものなのでご存知の方も多いと思うが、簡単に概要を示すと、転移性非小細胞肺がんにおいて、初期から緩和ケアチームが介入した群としなかった群で比較すると、介入群の方が患者のQOLが高かったばかりか、OSも11.6ヶ月vs8.9ヶ月と有意に介入群の方が長かった、という結果が出た。介入群の方がアグレッシブな抗がん剤治療は行わなかった患者が多かったことを考えると、実に意義のあるデータだ。

元データは↓

http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1000678

 

やはり、「診断時からの緩和ケア」をがん治療医がこれだけ真剣に考え始めるようになったのには、この「エビデンス」の効果が絶大だったと考える。がんの新薬は数か月単位でOSやPFSが良くなることで「画期的新薬」と言われて世の中に出てくる。もっと言えば、OSの延長効果が確認できていなくてもPFSの延長効果だけで承認を取得する新薬もあるくらいだ。

 

それほど、明確なOS延長効果を薬剤で得ることは難しいし、それだけに緩和ケアをきちんと行なうことで生存期間が有意に2.7ヶ月延長というのは、衝撃的な事実なのだ。(しかも、無理な抗がん剤投与を避けているのでおそらくトータルの生存期間あたりの医療コストも抑えられる)

 

Pirl先生の話でもう一つ印象的だったのが、緩和医療と抗がん剤治療、どちらの外来も患者は「同じドアを使って入る」というMGHCCの診療スタイルだ。確かにこうすることによって、治療の最初の段階から患者が違和感なく「緩和医療」はがん治療の一環であることを認識できる。人的資源の問題はあろうが、日本でも緩和ケアチームの陣容をより充実させて、こうした外来治療への組み込みを行なっていけるようになると、状況は大きく変わっていくだろう。

 

 

<緩和医療を起点に広がる地域連携:福岡大学病院の事例>

 

外来での薬物治療がこれだけ普及してきている中、どのように患者のQOLを支えていくのか、というのは「早期からの緩和ケア」を実践するうえで、大きな課題になる。しかも「経口剤」での外来化学療法が普及してくると院内だけでそれを支えるのは難しくなる。

 

その意味で、福岡大学病院の高松先生が発表された事例は大いに示唆に富んだものだった。

 

高松先生が示した外来で実際に起きた問題は、以下のようなものだ。院内でドセタキセルを処方して浮腫予防のためにデキサメタゾンを外来処方したら、院外薬局で薬剤師により「吐き気止め」という説明が患者にされ、その後の生活で吐き気を感じなかった患者が自己判断で服薬中止したら浮腫が出てしまった、と。

 

実際、お薬手帳には病院で行なった注射薬の情報は記載されず、それだと医師の処方の「意図」がわかりづらくなってしまう。そこで、福岡大学では、院外薬局との「がん診療連携勉強会」を自主的に開催するようにして、最初の1年は大学側から抗がん剤や副作用対策の薬剤の説明をし、今年に入ってからは薬局側から患者への服薬指導の実践例を発表して共に討議をする、というような試みをしているとのこと。

 

このように、「早期からの緩和ケア」を実践しようと思うと、当然のことながら抗がん剤治療と「セット」で現状不足しているところに対する手立てを打っていかなければならない。そうした意味で、非常に良い事例であった。

 

 

<緩和ケア外来通院による予後改善効果:近畿大学堺病院の事例>

 

もう一つ面白かったのが、近畿大学堺病院の大塚先生による発表。首記のように、緩和ケア外来通院による予後改善効果ということで、Pirl先生たちが出した示唆を自施設でもあてはめられるかどうか、後ろ向きの解析ではあるが癌腫横断で確認しようとした意欲的な研究だ。

 

それによると、緩和ケア目的の外来通院が6日間以下の非外来通院群と、7日間以上の外来通院群では、OSが6.0ヶ月vs19.0ヶ月と外来通院群の方が有意に長かった。

 

ちょっと衝撃的な数字だが、比較解析の時点で介入群と非介入群ががんの進行度(診断時Ⅳ期)と化学療法の既往の有無でしか揃えられておらず、正直なところエビデンスとして採用されるにはちょっと厳しい部分がある。(非外来通院群は、外来で継続したくてもできなかったような状態の厳しい患者がかなり混じっていたと考えられる。例えば、PSが揃えられていたなら良かったのだろうが、後で質問してみたところ残念ながらPSのデータは残っていなかったとのこと)

 

しかしながら、こうしたデータを出して本当のところ緩和ケアのベネフィットは定量的にみるとどうなっているのかということが、「見える化」され始めたこと自体に意義がある。

PSが取れているような施設であれば、大塚先生がされたような振り返りの解析は色んな施設でかけることができよう。日本でも同様のデータが複数出てくることが、「診断時からの緩和ケア」を本当に普及させる機運をさらに盛り上げるドライバーになるだろう。

 

 

<「緩和ケア」という言葉がなくなる日>

 

本セッションでは、このほかにも消化器外科の立場から岐阜大学の吉田先生、乳腺科の立場から東京医科大学の山田先生がそれぞれ「がんと診断された時からの緩和ケアの実践」を目指しての取り組みについて語られた。

 

座長の曽根先生も藤原先生もそういう意味で、今まで緩和医療の学会ではあまり見られなかったような先生方であり、そうしたバリバリのがん治療医たちが真剣にこの問題について討議をされていた姿は実に印象的だった。

 

今の緩和医療学会の理事長である恒藤暁先生と、昔お話した時に心に残っている言葉がある。それは、「私は緩和ケアという言葉がなくなっても良いと思う。それくらい、当たり前に行われる世の中にしていかなければならない。」というものだ。

 

今回の緩和医療学会で、「治療医が自ら緩和ケアを語り始めた」ことは、それだけ意義深いものだと思う。来年以後も是非この流れが加速することを期待したい。