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ASCO2012感想記(3)~治療周縁の学際的なプログラム~

ASCOの特徴の一つとして、膨大なプログラムの中に、治療周縁の学際的なプログラムがかなり入っていることが挙げられる。たとえば、「肺癌」、「乳癌」、「消化器癌」、「予防・疫学」、といったプログラムの塊と同じレベルで、「Patient and survivor care(患者・サバイバーのケア)」や「Ethics(倫理)」、「Practice management and Information Technology(臨床マネジメントとIT)」といいったプログラムの塊が複数存在する。

 

今回いくつかこの類のセッションを聴講したが、中で特に面白かったものを2つ取り上げたい。

 

 

CPRの患者意思決定に特製ビデオが及ぼす影響>

 

1つは口演(Oral Abstract Session)セッションの中であった、「A video decision support tool for CPR in advanced cancer (進行がんにおけるビデオ形式のCPR意思決定サポートツール)」。

 

CPRとはCardio Pulmonary Resuscitation(心肺蘇生法)のことである。終末期のがん患者に対してCPRを行なっても蘇生の可能性は殆どなく、蘇生したとしても患者の尊厳が保たれた形のものにもほぼならない。一方、ICUの使用を前提とすると高額の医療コストがかかる、という問題がある。

 

しかし、目の前の患者に対してベストを尽くさなければならないと考える医療者にとっては、事前に患者の同意を得ていない限りは患者の本来の意思がのようなものであるかに拘わらず、CPRを施すことになる。私が患者であれば、絶対にやってほしくない医療だ。

 

従って、事前に患者の意思をどう拾い上げるのか、ということがイシューとなる。

 

口演では、「事前に口頭でCPRについて説明した群」と「事前に特製ビデオを用いてCPRについて説明した群」との無作為比較試験について紹介された。いずれも、余命1年以内であることが告げられている患者が対象で、エンドポイントは、CPRについての選好度合と知識の習得度合である。

 

この特製ビデオは、オンコロジスト、看護師、ソーシャルワーカー、遺族、患者などのあらゆる関係者のアドバイスを基に作られたもので、CPRを施される患者がどのような姿になるのか、そしてCPRによって(短期的に)救命される可能性がどれくらいなのか、といった内容が盛り込まれている。

 

結果としてビデオによる介入を行なう群の方が、圧倒的にCPRの希望は少ないし、正しく理解もされているということであった。(具体的数字は記録し損ねたが、CPRの希望する/しないは、介入群が2:8の割合に対し、非介入群は5:5という感じ)

 

ちなみに、演者の先生に口演後に個別に質問しに行って、余命が1年を切るということを患者に告げること自体、日本ではまだ一般的ではないが米国ではどうなのかと尋ねたら、それを告げるのは当たり前の話だというように逆にビックリされた。

 

CPRに限らず、残された時間をどのような環境の中でどのような治療を受け、どのように過ごしたいかという、いわゆる「ACPAdvance Care Planning、事前のケア計画)」は、患者の希望した過ごし方を実現するという意味でも、無駄な医療コストを抑えるという意味でも、今後の日本のがん治療で大きな進展が望まれる分野だと考える。

 

 

Patient Portals in Oncology(患者専用のウェブサイト)>

 

もう一つ、ちょっとおもしろかったのが、「Patient Portals in Oncology(患者専用のウェブサイト)」というセッションだ。

 

口演ではボストンのベス・イスラエル病院とMSKCCの先生がそれぞれの施設での、患者サイトについて詳細を説明していたが、どちらも似たような話だったので、ここではベス・イスラエル病院の話を紹介する。

 

患者と共有されるデータは主に次のようなものになる。

・検査結果(組織検査、X線・CTなどの放射線検査)

・処方薬

・予約(確認/リマインド/依頼)

・医療費

・患者教育的な資材

・「ノート」

 

最後の「ノート」というのは、いわゆるカルテに書かれる所見に近いものだろう。MDアンダーセンの手法を真似て導入したとのことで、メモとして残されるものは、研修医が書いたものを除きあらゆる情報を患者とオンラインでシェアすることになっている。

 

この姿には一朝一夕でなったわけではなく、ベス・イスラエル病院では1999年から導入が開始され、患者や家族とディスカッションしながらどのような情報が必要か、そしてどのような出し方が適切かを吟味し、規制に引っ掛からないことを確認しつつ機能を一つ一つ追加していったということだ。

 

「こういうことをやろうとすると、必ず臨床医師からは反発が出るので、トップがこれをどうしてもやるんだという意思表示をきちんと行うことが大事」と演者が強調していたが、この辺の機微は、日本も米国も変わりがない。

 

せっかく参加したのだから、一つ質問してみようと思い、こういった情報が患者のかかりつけ医などとも共有されているのかを尋ねてみた。ベス・イスラエルではまだそこまでいっておらずFaxベースで患者が共有しているだけのようだが、MDアンダーセン病院は地域の開業医とカルテを共有しているということだった。

 

日本は、米国よりも電子カルテの普及自体は進んでいるのだから、是非ともこうした患者との情報共有サイト的な取り組みを進める病院に出てきてほしいものだ。