ASCO2012感想記(2)~前立腺がんの新規薬剤~

ASCOの開かれているシカゴの会場マコーミックセンターは、いわゆる「五大湖」の一つ、ミシガン湖の湖畔にある。大都市にある学会場というのは大概殺風景なイメージがあるが、ここは湖岸側の建物を一歩出ると↓のような美しい景色が広がっており、屋外に並んでいるテーブルで仕事をすることもできる。

 

 

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とはいえ、このエリアにたどり着くためにはかなりの距離を歩かなければならないのだが。。。

 

さて今回のASCOで、薬剤周りで最も“熱い”領域はおそらく前立腺がんであろう。この領域で米国で昨年に新規薬剤「Zytiga(成分名Abiraterone)」を上市したばかりのヤンセンファーマが元気よく宣伝しているのが目立っているし、有料チケットセッションとなっていた3日目の「Treatment of the Patient with Castration-Resistant Prostate Cancer(去勢抵抗性前立腺がん患者の治療)」は長蛇の列になっていて全く入る余地がないくらいの注目度だった。

 

 

<なぜ前立腺がんの領域なのか>

 

前立腺がんに注目が集まる理由は大きく2つある。まず、患者数が多いがん腫であること。日本でも男性に限れば、胃、大腸、肺、に続いて4番目に患者数が多い。次に、治療上の未充足ニーズが大きいこと。進行前立腺がんに対する治療法としては、男性ホルモンを抑えるいわゆるホルモン療法で、それでも進行した際には、化学療法になるのだが、他の主要な癌腫と異なり、そこから先は化学療法以外に有効な治療選択肢が無かったことが、大きな問題だった。

 

 

<新規ホルモン治療薬の登場>

ここに登場したのが前述のAbirateroneという新規のホルモン治療薬だ。男性ホルモンを抑えるという意味では従来の治療と狙いは同じだが、ホルモン産生のより上流の部分を断つという意味で作用機序が異なる。現在の米国での適応は、化学療法で効果が認めれなくなった後の2次治療(というか3次治療)としてのみだが、今回のASCOでは、化学療法未施行の患者群でAbirateroneの有用性が検討されたCOU-AA-302試験の中間解析結果が発表された。

 

それによると、一次エンドポイントであるrPFS(骨スキャンで確認された無増悪生存期間)は、プラセボ群が中央値8.3ヶ月に対しハザード比0.43で有意にアビラテロン群で良好、同様にOS(全生存期間)もプラセボ群が中央値27.2ヶ月に対しHR 0.75で有意にアビラテロン群で優れていた。(いずれも、アビラテロン群はまだ中央値に達していない。)

特に、rPFSがプラセボの倍以上望めそうというのは、かなり画期的と言えるだろう。

 

最終結果が出るまでまだ時間が必要だが、副作用リスクの小ささを考えると、おそらく、将来は化学療法の手前での使い方が主流になってゆくと思われる。

 

 

<続々と登場する新規薬剤>

 

Abiraterone以外にも、「Enzalutamide(MDV3100)」というアステラスが米国の会社と共同開発している新規ホルモン治療薬の試験「AFFIRM」の中間報告がされた。こちらは、Abirateroneとはまた異なる作用機序のホルモン剤で、ドセタキセルでの化学療法が効かなくなった患者群に対する有用性が検討されている。それによると、OS中央値が、プラセボ群13.6ヶ月に対しEnzalutamide群は18.4ヶ月と、ハザード比0.63で有意にEnzalutamide群に軍配が上がっている。

 

これら新規薬剤はホルモン剤であるゆえに、化学療法剤や分子標的薬と比べると副作用がシビアでなく、患者にとっての価値は大きい。従って、Abirateroneをはじめとして化学療法を押しのけて先に使われるような形に治療体系が変わっていく可能性が高い。

 

この他、武田薬品もAbirateroneと同じ機序の薬剤を持っているなど、日本の製薬会社オリジナルの薬剤が複数あることだし、日本も近い将来に大いに “盛り上がる”市場になることは間違いないだろう。

 

 

*注記: 本ブログ筆者は、本エントリー執筆時点で、関係する製薬会社との間でCOI(Conflict of Interest、利害関係)を有していません。また、AbirateroneやEnzalutamideは日本では未承認の薬剤です。