がん対策推進協議会の議論の中身を濃くするために

がん対策推進協議会が、次期がん対策推進基本計画を決めていく本格的な議論開始ということで、先月から集中的に開催されている。先週12日(月)に11月の前回に引き続き傍聴したのだが、どうにも消化不良感が残っている。




<そもそも資料の読み込みに2時間近くかける会議はあり得ない>


まずびっくりしたのが、会議の進め方だ。


びっしりと文字が入っている資料が配布され、これを読んで説明するのだけに、1.5〜2時間近くかかっていた。


4時間というかなり長い時間をとっても議論が中途半端にしかならないわけだ。配布資料はせめて前々日あたりまでに配って目を通しておいてもらい、「議論」を中心に行なうようにしないと時間はいくらあっても足らない。


それぞれの分野で日本で先頭に立ってやっている方々の時間がどれだけ貴重か、事務局にはもう少し考えて頂き、運営方法を改善して頂きたい。




<”焼き直し”発想ではなく、”ゼロベース”発想を>


今回の議論の中で気になったのが、「既存のがん対策推進基本計画をベースに考えなければいけない」という”呪縛”だ。委員の方々からも、前のものからはみ出すのはあまりよろしくないのでは、的な意見が出されているが、そうすると大事な問題を見落としかねない。


こういう時は「ゼロベースの発想」が必要で、「そもそもこれはなぜ問題なのか?何が本当の問題なのか?」といった視点で議論すると、議論の質が一気に高まる。


特に既存の基本計画が、「供給者目線」の言葉で書かれていて「患者(もしくは一般市民)目線」とは言えないという問題を抱えているので、この観点からの見直してみると違う風景が見えてくると思う。




<課題を構造化・整理する>


さて、議論が消化不良な最大の原因は、議論をする上での土俵というか地図がないので、参加者も聴講者もアタマが整理されないことにある。本来は事務局がこういうものを作って、座長の先生にインプット差し上げるのが筋と思うのだが、文句を言っていてもはじまらないし、次回からの議論が実際により実のあるものになってもらいたいので、私論も含めて、試しに以下のように整理してみた。




こうした課題の「地図」を作ってから、何を足すべきか、どの問題が特に重要なのかといった議論をすると良い。この際、課題をざっくりでも定量化しておくと、重要度の議論がし易いし、後述する目標設定がし易くなる。


時に、「対策」の話に議論がすっ飛んでしまう事が往々にしてあるが、まずは「課題」を上記のような形できちんと整理し、重要度の高いものをピックアップするのが第一ステップだ。(これがそのまま、「重点的に取り組むべき課題」に直結していく)




<課題の真因を突き詰める>


次にやるのが、なぜその課題が発生しているのかを突き詰めて考えること。ここが次の議論のヤマとなる。課題の真因さえつかめれば、どんな対策をとるべきかは自ずと出てくる。


例えば、「有益と考えられるがん検診の受診率が低い」ということであれば、未受診者がどのようなセグメントの人たちなのか、そして彼らはどうして受診しないのか、を詰めていく。


このような調査が出来ていないのであれば、これをやっていくことが次の打ち手に繋がるし、ある程度別調査から類推可能であれば、それを基にして打ち手まで議論できる。なお、調査の際にはあらかじめ仮説を持っておくことが、(質問も絞れるので)スピードアップにつながる。


例えば、企業健保の加入者はほとんど受診しているが、国保の加入者は受診率が低い。なぜなら、企業健保の場合は、いわゆる「人間ドック」という形でがん検診も含めた総合的な健診をパッケージで受けられるが、自治体のがん検診は部位毎にバラバラで予定が調整しづらい、とかが考えられる。


であれば、Web調査で健診の受診状況を拾って、非受診者にその理由を尋ねるという極めてシンプルな調査設計である程度のものは見えてくる。この程度の調査なら1週間でできるだろう。




<「目標」を設定する>


この後は何らかの目標を決めなければならない。


目標を定める上で大事なポイントは、「出来る限りの定量化しておく」「期限と責任主体を定めておく」ことの2点だ。これをしない限り計画も目標もあくまで作文上のもの(計画のための計画)だけになってしまう。


時間は限られているが、是非議論をここまでたどり着かせて頂きたい。


日本のがん医療の向上に携わる者の一人として、本エントリーが多少なりともがん対策推進協議会の議論の進展に資することができれば幸いだ。