原発問題に見る”なし崩し的追認”の思想

昨晩、めずらしく夜にニュースステーションをちら見したのだが、その中で「国民の6割は原発を増やすまたは維持するという意見で、成熟した議論が出来るようになってきている」というコメントが解説者から飛び出したのを耳にして、思いっきり「は〜、何言ってんの?」と独り言を言ってしまった。


このコメンテーターが念頭に置いているのは、先日の朝日新聞で発表された、電話調査の結果のことだろう。


Web記事は↓参照


そして、この記事の元となっている調査を見ると、↓のような質問項目と回答があった。


◆日本の原子力発電は、今後、どうしたらよいと思いますか。(択一)

 増やすほうがよい   5

 現状程度にとどめる 51

 減らすほうがよい  30

 やめるべきだ    11


長期的な方向性を考える上で、こうした意識調査は大事だが、この調査は新聞の1面やTVのコメントでばんと出すにはあまりにもラフすぎる。


一番の問題は、「現状程度にとどめる」という表現が恣意的という点だ。例えば、ここが「現状程度は維持する」だと回答割合がかなり変わるだろう。


もう1つ見逃せない点は、「現状程度にとどめる」ことは、今後耐用年数が限界に来る炉が順次出てくる事を考えれば、原子力発電所を新設する事を意味するのだが、そこに関しては触れられていない。回答者がそこまでわかって回答しているとはとても思えない。


ではどのように聞くべきか。


僕なら、「今後20年程度の間で殆どの施設が耐用年数を過ぎること」を前提として説明した上で以下のような形で聞いてみたい。


A:原発の新設を積極的に進め、原子力発電の割合を引き上げる
B:廃炉分をカバーする程度は原発を新設し、原子力発電は現状程度の割合を維持する
C:原発の新設は行なわず、順次廃炉を進めて原子力発電の割合を漸減させていく
D:寿命の残っている原発についても積極的に廃炉を進め、短期的に全廃を目指す


いずれにせよ大切なのは、まずきちんとした選択肢を用意すること。そして、どの道を選択するにせよ、プロセスが目に見える形で議論した上で中長期的に原発をどうするのかという「戦略的意思決定」をすることだ。しかし、政府の動きを見ていると、どうもこの意思決定をするのだという気概も意思も見えてこない。


「混沌の時代」に入った我々にとって、日本の意思決定機構の底流を流れる「なし崩し的追認」の思想がいつまでたっても無くならないことこそが、最大の災厄なのだ。