事実は小説より奇なり〜がん対策推進協議会での珍事件〜

<珍事件の勃発>


先日開催されたがん対策推進協議会で珍事件が起こった。


5人いる患者委員の一人から「緊急動議」が出され、垣添座長の解任を申し立てたのだ。結果的に否決されたものの、垣添座長は自ら辞任、といわば”前代未聞”の事態で会議運営が”迷走”する事態となった。


↓の19日付での日経新聞記事でも取り上げられている。
http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819695E3EBE2E1828DE3EBE3E3E0E2E3E29180EAE2E2E2;at=ALL


上記の記事はいずれ削除されるだろうから、ことの詳しい顛末は卵巣がん患者の会スマイリーの片木さんがご自身の意見も含めて、↓の4回にわたるブログエントリーに書かれているので、興味のある方は是非ご覧いただきたい。
http://ameblo.jp/miho-katagi/entry-10714195517.html#main
http://ameblo.jp/miho-katagi/entry-10714233785.html#main
http://ameblo.jp/miho-katagi/entry-10714292989.html#main
http://ameblo.jp/miho-katagi/entry-10714335567.html#main


本件、何が”珍”事件って、「事務局の運営がひどいから、座長を解任すべし」っていうロジックがわけわからんという点と、動議が否決されたにも拘らず垣添会長が辞任してしまった、という2点だ。


会社で言えば、取締役会の開催運営手法が悪いからという理由で取締役会でいきなり会長(CEO)に解任動議を出す、みたいなもので、「アホかお前は」と取締役会議では当然のごとくあっさり否決。ところが、会長が「これじゃ任を全うできない」として辞任してしまった、みたいな話だ。どちらも無茶苦茶である。大体、会長を解任する動議って、会長がよほどおかしなことをやっていて会社を傾けないためにもどうしてもやらねば、というようなケースで刺し違えるくらいの覚悟でやるものだと思うが、今回はどちらも当てはまらない。せいぜい、経営企画部の仕切りが悪いみたいな話でしかないのに何でこうなるのか。。。


いずれにせよ、客観的に見て、ワケのわからない解任動議を出して協議会を混乱させた埴岡さんと郷内さんの責任は重いし、事がここまで来た以上、解任を唱えた埴岡さんと郷内さんの委員の継続は認められないだろう。


埴岡さんには医療政策人材養成講座でご指導頂いた恩義ある立場だが、今回の件は非常に拙い対応だったと言わざるを得ない。




<患者を”指導”する時代の終わり>


片木さんのブログでは、今回の件が患者委員の資質が問われることに繋がりかねないとして、非常な危機感が表されている。私も、今回の件で「患者のわがまま」で要の会議が空転という捉え方をされかねない懸念は共有する。その一方で、逆説的に聞こえるかもしれないが、今回の一件は患者が真の意味で自立&自律する良い契機だとも考えている。


私も昔の話を実際に同時代に見聞きしたわけではないが、がん対策基本法成立くらいまでの段階では、患者アドボカシーというのは一部の国会議員や非常にカリスマ的な少数の患者リーダー人たちが引っ張って、進んできたという経緯がある。


それが3年以上経って、がん患者のオピニオンリーダーも次世代が育ってきて厚みを増したように感じている。先月の癌治療学会でも、就労問題について論じたCanSolの桜井さん、地方県での患者の実情を示したおれんじの会の松本さん、ドラッグ・ラグについて論じたネクサスの天野さん(今回の騒動で臨時座長を務めた人)、それぞれのスタイルで非常に説得力のあるプレゼンをされていたし、医師側も「しっかりとした議論ができる相手」として患者リーダーたちへの認識を新たにした感があった。


彼ら以外にも患者会リーダーの方で、医療者と対等以上にしっかりとした”議論”ができる人材はおり、一昔前の「話せる相手は本当に限られているな」という時代とは確実に違ってきている。垣添会長の解任に対し、郷内さん以外の患者委員は否決に回ったことから見ても、患者リーダーの中での”良識”はそれなりに保たれていると考えて良い。


そういった中で起きた今回の事件は、埴岡さんが主導されている医療政策機構の活動で見られるような、患者以外の組織や人が患者に対して示している父権的なアプローチの限界すらも露呈したと感じている。




<患者の周りにいる組織・人が本当にやれること>


私もその立場の一人と言えるが、患者の周囲にいてサポートをする立場としてやるべきことは、もっと変質していくと思うし、そうなっていくべきだ。


癌治療学会でも少し議論が出ていたが、例えば医療者や医療機関の立場であれば、患者さんの経験を医療現場でどう活かしていくかを真剣に考えて、きちんとした雇用の場作りをする、というのが一つだ。


また、製薬会社や患者サポートイベント組織は、患者さんにボランティアで動いてもらうのではなく、きちんと仕事を依頼し、それに対する対価も明らかにして支払うようにする、といったことが望まれる。こそこそやるのではなく、堂々とお金を払う環境を作ることが大切だ。


私が主張している”Direct from Consumer”が製薬会社のマーケティングに浸透すれば、戦略策定に資する示唆を与えてくれるような患者に対して、製薬会社がフィーを払う、というような姿が普通になるだろう。


ヤマト運輸を創業した小倉さんが、後年障害者の作るベーカリー事業(スワンベーカリー)の立ち上げに尽力された時に、「役所が作った施設では、障害者だから低賃金で低価格のパンで良しとしているがこれは間違い。市場で通用する製品を作れるようにして、まっとうな価格でパンを売ってまっとうな賃金を支払えるような仕組みを創らなければならない」という旨のことを言ったという。


がん患者に対するアプローチも、同じようなマインドがこれから必要になってくると確信している。