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"サメ軟骨は無効"の試験結果の先にあるもの

医療への視点

アガリスクメシマコブ、サメ軟骨、フコイダン。。。


がんの代替療法の中で、これら"健康食品"はその積極的なマーケティングもあり、かなり人口に膾炙している。特にがん患者や周囲の家族・親族で実際手に取ってみた事がある人もかなり多い。


がん患者における代替療法利用者は44.6%というデータ(*<1>)があるが、これは一時点で切った時に取ったデータなので、最終的に何がしかの形で使う人、というのはこれよりずっと多いということになる。


そして、利用している代替療法の中では健康食品・サプリメントが96.2%と圧倒的な位置を占める(*<1>)



【サメ軟骨は無効:世界初のハイレベルなエビデンスが創出】

そんな代替療法、以前にも取り上げたが、「有効であることを示すハイレベルなエビデンスがない」ことは事実なのだが、逆に「無効であることを示すハイレベルなエビデンスがない」ことも事実だった。

(以前のエントリー「どう考える?代替療法」ご参照 http://d.hatena.ne.jp/healthsolutions/20100228/1267372697


意義はあるもののそんな試験をやるところはなかなか無いだろうと思っていたら、何とこのたびサメ軟骨の有用性を調べたハイレベルな臨床研究(P3)の結果が出てきた。(MDアンダーソンの上野先生のTweetから情報入手。上野先生に多謝!)

http://mdanderson.bm23.com/public/?q=preview_message&fn=Link&t=1&ssid=6781&id=8l96gemxrewn6g160kyinl6n4qtk9&id2=5yjbx2gjwvjxpn3vec664nkhotmt8&subscriber_id=bxaiztdnltfqeipdignhcrsyksyibgm&messageversion_id=blsfnbvjmumwhtkekthcqnrcxrryboh&delivery_id=ahsylnuhzgnrshrcslehpvybngesbne#


"Shark Cartilage Shows No Benefit as a Therapeutic Agent for Lung Cancer"のタイトルにあるように、サメ軟骨は肺がんにおいては治療薬としての有用性は認められなかった、というのが結論である。


試験内容は、379名のステージ3の非小細胞肺がん患者に対し、どの患者も標準的な化学療法・放射線療法は施した上で、プラスアルファの投与として「サメ軟骨投与群」と「プラセボ投与群」に分けて生存期間を比較している。ただし、標準治療終了後はどちらの群もサメ軟骨を投与している。


結果として、生存期間が「サメ軟骨投与群」は14.4か月・「プラセボ投与群」は15.6か月で、統計的な有意差なし、と出た。


北米で6年間(2000-2006)かけてリクルーティングしたということで、お金も相当かかっていることだろう。何はともあれ、この試験を遂行したこと自体に、大いに敬意を表さなければならない。スポンサーはNCI(National Cancer Institute)とAeterna Zentarisという、サメ軟骨製品の開発を目論んでいたカナダのケベック州の会社。この会社にとっては大きな損失になったのだろうが、きちんとこうした試験に取り組んだその姿勢は称賛されるべきだ。



【科学的な正しさと患者のニーズとのすれ違いを埋めるには】

さて上記の試験、これはこれで大きな進歩なのだが、この結果が他のがんにもあてはめられるとはもちろん限らないし、対象患者のタイミングも実際に投与されているタイミングやシチュエーションとは必ずしも一致しない。


患者さんがこれらの食品に頼るタイミングは、通常の治療の手立てが尽きた後が圧倒的に多いという。となると、本当はそういった厳しい状況の中でどうなの?という疑問に答えていかなければならないだろう。標準治療がこれ以上行なう意味がない、というところで「見捨てられ感」を患者が抱き、代替療法に走るというのがありがちな構造なのだ。
(今回の試験のデザインだと、標準治療への上乗せ効果の有無は調べられても、単独の効果は見えない)


実際、製薬会社の同僚ですら、奥方を亡くされた直前は効かないとわかっていても、高額な健康食品に手を出したという。夫として「やれることは全部やったと思いたい」の一心だったそうである。


そんな気持ちを真っ向から否定するのはなかなか難しい。しかし、もう少し見晴らしを良くすることはできるかもしれない。そのために本当に必要な試験は、次のようなものではないか。


「標準治療がすべて効果が認められなくなった患者」を、「"Best Supportive Care"のみで対応する群」、「補助食品X+"Best Supportive Care"で対応する群」、「プラセボ+"Best Supportive Care"で対応する群」の3群に分け、比較する。Outcomeは、「生存期間」と「精神的な苦痛」。


ポイントは2つある。科学者にとっては、「プラセボ効果が無い=有用性は認められない」のだが、患者や家族にとっては「プラセボ効果でもあるのなら有用」、ということが1つ。「やれることはやった」と思えるか否かで「精神的な苦痛」の度合いが変わってくる可能性があり、その点については確かめる必要があるということがもう1つ。


今回のスタディの結果が単純な代替療法バッシングに終わるのではなく、背後にある患者心理により一歩踏み込んだ議論になっていくことを期待したい。



<追記>
本稿の執筆にも参考にさせて頂いた金沢大学のHP(http://web.kanazawa-u.ac.jp/~med67/guide/image/cam_guide_no2_0807.pdf)は非常にわかりやすくまとめてあるので、興味のある方はご一読をお勧めする。



<参考文献>
<1>厚生労働省がん研究助成金「我が国におけるがんの代替療法に関する研究」班 主任研究者:兵頭一之介、出典:Journal of Clinical Oncology 23;2645-54,2005