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"嫉妬"はゼロサム・ゲーム

医療への視点

「製薬大手への過保護政策を転換し、医療への公的支出を増やす財源捻出を」


先日、MRICの投稿記事にこのタイトルを見て、頭の中にクエスチョン・マークが飛びまくった。


全国保険医団体連合会の小藪氏が書かれたこの記事、久しぶりに"暴論"を見た思いだ。


【論調の中で唯一同意できたのは、薬価制度がおかしいという点】


確かに、降圧剤のARBがあそこまで市場が大きくなったのは、薬価が過大であったという考え方はある。高血圧、高脂血症、糖尿病、といったいわゆる「生活習慣病」の市場は他とのバランスを考えてみても大きくなりすぎた感はある。


大体、あの手の薬剤は「大規模臨床試験」をやってほんのわずかに出た差で"スゴイ"ということになっているが、逆の言い方をすればn数をそれだけ集めなければ有意差が出ないということであって、大した話ではないのだ。そんなに「画期的」でない薬に「画期的な薬価」を付けてしまったという嫌いはあるだろう。


従って、もっと未充足ニーズの大きい領域にオカネが回るように薬価を戦略的にコントロールするという考え方はあり得る。



【全体として"製薬会社いじめ"としか見えない論調には同意できない】


小藪氏は製薬会社の利益率の高さを「不況とは無縁、空前の荒利益率」として、「ここ数年の武田薬品工業売上高経常利益率(連結)は、莫大と喧伝されている研究開発費、販管費、海外メーカー買収などの経費をすべて控除しても21.3%(2008年)〜 44.8%(2007 年)と突出した収益性の高さを確保している」と述べている。


まず、製薬会社の利益が「不況とは無縁」なのは患者の受診が景気で左右されにくいので当然のこと。医療機関の経営だって、医師の収入だって、「不況とは無縁」なのだ。


そして、「空前の利益率」というが、2番手グループの第一三共は2006・2007年とも経常利益率は20%に満たないし、2008年はランバクシーのせいで大赤字。アステラスは23〜27%レベル。そして、どちらも売上は1兆円に満たない。武田で漸く1.5兆円レベル。


グローバル・メガファーマの2007年から2009年までの経常利益率の推移をとってみると、
  Pfizer: 19.2% -> 20.1% -> 20.7% (売上高:約5兆円)
  GSK:   33.4% -> 29.3% -> 29.7% (売上高:約4兆円)
  ・・・


ということで、ここで日本市場で薬剤費を叩いたところで次のような状況になるのが目に見えている。


①日系メーカーはただでさえあまりない国際的競争力を失い、新薬を創出する力を失う

薬剤の開発というのは、石油の掘削と似ていると言われている。100のコンパウンドがあったら、製品になるのはせいぜい2,3。

"Risky Business"で勝ち残るためには何が必要か?というと、まずは資金力(キャッシュフローを生み出す規模)なのである。未だにGlobal企業で合従連衡が行なわれるのはまさにここが理由だ。

領域ニッチでも目指さない限り、利益率の低下は即競争力の低下に結びつく。


外資系メーカーにとって市場の魅力が薄れ、開発の優先順位も下がり、ドラッグ・ラグが益々広がるリスクがある

外資系メーカーは良きにつけ悪しきにつけビジネスにはシビアなので、投資対効果を考えて行動する。即ち、日本の市場の魅力が薄れれば、そこへの開発投資は抑えられてしまうということになる。

ドラッグ・ラグのボトルネックは行政側の姿勢にもあるが、少なくともネガティブな方向に働くのは間違いないだろう。


そもそも、現在に至る医療のイノベーションの多くは、薬剤によりもたらされているのではないのか?典型的な例で言えば、「不治の病」だった急性白血病やHIVが治るようになったのは、まぎれもなく新薬のおかげだと言えよう。


薬剤が開発されない・導入されないという状況は、そのまま"医療後進国"になることを意味する。我々には、そんな後戻りが選択肢になるのだろうか。自分たちの子供にそうした医療を届けたいと思うのだろうか。



【まとめ】


"嫉妬"に基く医療費配分の是非の議論は、不毛なゼロ・サムゲームだ。患者利益に繋がる議論にはならない。


一方で、医療を提供する上でのシステマチックな問題については、もっと真剣に考えるべきだろう。


医療従事者間の役割分担の見直しや、無駄な事務手続きの排除。建物、ITシステム、高額な医療機器への投資等に見られる「病院」というプラットフォームの資本効率の低さ。


こういったものに手を付けることで、保険医の実質所得の伸び悩みに繋がっている可能性に眼を向けなければならないのではないか。