浅田真央の"鐘"は鳴った

バンクーバー五輪の女子フィギュアは、そろってフィギュアスケート観戦好きの我ら夫婦にとって、ここ数年の大きなハイライトだった。


結果はご承知の通り、キム・ヨナが金メダル。浅田真央は銀メダルを獲ったものの、悔し涙を流すこととなった。


彼女にとっては結果が金メダルでなかったということ以上に、フリーの"鐘"のプログラムを完璧に演じきることができなかったということに、悔しさが残ったように思えた。


でも、それでも言いたい。今回の演技で浅田真央は観ていた皆の心に"鐘"を鳴らしたのだと。


このプログラム、「難解すぎる」「重すぎる/暗い」「可愛らしい真央ちゃんの雰囲気に合わない」等々の批判を浴びてきて、事実、シーズン前半は浅田選手の調子の悪さをさらに増幅させて見せるような格好で、その批判が更に高まっていた。


うちの妻も、「やっぱりタラソワじゃダメなんだよ〜」と言っていたのだが、僕は一貫して、「いや、ちゃんと演じきった時に初めてこのプログラムの凄さが出るんだって」と言ってきた。


今回のオリンピックで、浅田真央の目に力が宿ったと感じた人はどれくらいいるだろうか。僕はそれを感じ取った。それまでは、天真爛漫に滑れば良かった段階から皆の期待を背負って勝負を求められて滑る段階に移るのに、うまく対応できない感じで、何か痛々しささえ感じることがあったのだが、今回は違った。


ショートプログラムは本当に会心の演技だったと思う。そしてフリーで2回のトリプルアクセルを入れた前半を完璧に滑り、中盤スパイラルに入った時に見せた彼女の表情は、それまで折に触れ見られたあどけなさや不安は微塵も感じさせず、勝負をかけている厳しさを表したコワいくらいのものだった。


結局はその後疲れも出たのかミスが出てしまい、冒頭の悔し涙につながったのだが。


キム・ヨナに対しての敗因を求めれば色々と出てくるのだろう。でも間違いなく言えるのは、浅田真央が鳴らそうとした鐘の音は、十分に届く内容だった。それくらい難しいプログラムをその本当の価値が何かを示すレベルまで持ってきたという意味で、今回は価値のある敗戦だったと思う。


次回のオリンピックは4年後。23歳になる彼女がその時までにアスリートとして、そして一人の女性としてどんな成長を遂げるのか、また見守っていきたいと思う。