イシュラン編集長が選ぶ2015年のがん医療界5大ニュース!

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第5位:反論続々、近藤誠医師の”怪進撃”に待った!

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近藤誠医師については、多くの心ある医療人がその言説の誤りや危険性について、厳しい指摘を繰り返してきました。

 

しかしながら、残念なことにそうした「声」は一般の方にはなかなか伝わりませんでした。

 

ベストセラーを連発する近藤医師を持ち上げ続けてきた、マスコミや週刊誌にも大いに責任があるわけですが、一般の方によりわかりやすく伝える術を持たなかった(持とうとしなかった)、がん治療医側にも責任の一端があったでしょう。

 

そんな中、今年の夏にがん治療医が著した2冊の本が相次いで出版されました。

 

  ■「医療否定本の嘘」(勝俣範之)

 

  ■「がんとの賢い闘い方 『近藤誠理論』徹底批判」(大場大)

 

 

勝俣医師の今作は、前作「『抗がん剤は効かない』の罪」よりずっと一般の方にもわかりやすい形で書かれた良著です。

 

また、大場医師は週刊新潮上で反近藤論の狼煙を上げ、書籍のみならずブログでも警鐘を鳴らし続けています。

 

そして最後、極めつけだったのが、女優の川島なお美さんの遺作です。

 

  ■「カーテンコール」(川島なお美、鎧塚稔彦)

 

 

川島なお美さんは、この遺作の中で、近藤医師(と読み取れる医師)にセカンドオピニオンを求めたこと、そしてその場で胆管がんの病状について「手術しても生存率は悪く、死んじゃうよ」という非常に冷酷な宣告を受けたことを記しています。

 

さらに、ラジオ波で焼却することを勧められたものの、ラジオ波の専門の医師に受診してみると、胆管がんでは勧められない治療法であることがわかり、「あれって一体なんだったんでしょうか?」とまで書いています。

 

近藤医師の医師としての腕前への根本的な疑問や、患者に対してのコミュニケーションの杜撰さが、一般の方に対してこのようなインパクトある形で露呈されたのは、これが初めてでしょう。

 

いずれにせよ、2015年は近藤誠医師のこれまでの”怪進撃”についに待ったがかけられた年、となりました。

 

 

 

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第4位:待望のがん患者の全国組織「全国がん患者連合会」設立

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患者会」というと、一般の患者さんからするとあまり馴染みが無い、少し距離のある存在かもしれません。

 

しかし、国や自治体の政策を決める上で、患者さんの声を反映させるという意味では、非常に重要な存在です。

 

例えば、海外に比べ日本での薬剤の承認のタイミングが大きく遅れる、いわゆる「ドラッグラグ」問題が近年かなり改善されてきたのも、患者会の力が大きかったりするのです。

 

そういう意味で、しっかりした全国規模の患者団体があるのが望ましい姿なのですが、日本のがん領域では実はこれまで比較的短期間に、有力な団体が浮かんできては瓦解するという歴史を繰り返してきました。

 

これは、一部の個のリーダーシップに頼ってしまったり、特定の代替療法やエビデンスの乏しい治療法を推奨する人たちが団体の運営に紛れ込んでしまったり、といったことが原因だったと思われます。

 

それが、今年の5月に全国がん患者連合会が立ち上がり、潮目が変わりました。

 

全がん連の運営やサポートに携われている方々の多くと私も個人的にお付き合いがありますが、いずれも「出会えて良かったな」と心から思える素晴らしいメンバーで、必ずや求心力を伴った長続きする団体になると確信しています。

 

12月には、初の試みである「がん患者学会」が開かれ、私もオブザーバーとして参加してきました。

今後この場が、「産(製薬会社/医療機器メーカー)・患・官・学・報(マスコミ)」が一堂に会し、

 

・患者視点で見た時のがん医療の問題点を洗い出す

 

・それをどうやったら解決し、患者さんにとって意味のある「製品・政策・臨床・報道」ができるのかを割り出し、各立場のアクションまで落とし込む

 

・やると決めたアクションがどうであったかを検証する

 

ような場に発展していくことを期待すると同時に、私自身もできる限りのサポートを差し上げていく所存です。

 

 

 

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第3位:”ホンモノの”免疫療法時代の幕開け

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昨年の本メルマガでの5大ニュースの1位は、「ホンモノの免疫療法の登場」でした。

 

「ホンモノの」というのは、日本でがんの免疫療法というと、樹状細胞ワクチン療法やらNK細胞療法など、治験で有効性や安全性がまったく確認されていない「えせ免疫療法」が目立ちますが、これらとはまったくの別物だからです。

 

昨年その萌芽を見せた免疫チェックポイント阻害剤関連のニュースは、今年実際にブームと言って良いような状況になってきました。

 

アカデミアの世界では、ASCO(米国臨床腫瘍学会)の最大のテーマが免疫療法でしたし、日本のがん治療関連の学会でも、この「ホンモノの免疫療法」に大きな時間が割かれていました。

 

medicalinsight.hatenablog.com

   

 

また、10月27日のNHKクローズアップ現代」で免疫療法が取り上げられるや、上記のブログエントリーにも爆発的なアクセスがありました。

 

www.nhk.or.jp

   

 

そして、この年末にいよいよ、ニボルマブがメジャーながん種である「非小細胞肺がん」で、日本でも適応を取得しました。

 

  ■「オプジーボ®「一般名:ニボルマブ」切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに関する効能・効果に係る製造販売承認事項一部変更承認取得小野薬品工業

   

 

抗がん剤の治療の主役として、化学療法に分子標的薬が加わったのが過去10年だとしたら、ここからの10年はそこに(ホンモノの)免疫療法が加わる、もしくは取って代わる可能性が大きそうです。

 

その意味で、今年は「免疫療法時代の幕開け」の年と言って過言ではないでしょう。

 

 

 

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第2位:抗がん剤の超高額化の波止まらず、「Value」が求められる時代へ

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今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で「免疫チェックポイント阻害剤」と共に大きなテーマとして取り上げられたのが、「Value」のコンセプトです。

 

いきなり、「Value」と言われても何のことだかわかりにくいですね。

 

大雑把に言うと、その治療で見込める「効果」から「副作用」を差し引いた価値が、治療にかかる費用と見比べてどうか、というのが「Value」の考え方です。 

 

ASCOは、この「Value」の概念を、医師と患者で行なう治療方針の決定の場に持ち込むべきと考えています。その大きな理由の1つが、「がん治療にかかるコストが格段に高額になってきたこと」です。

 

このメルマガでも何度か取り上げているように、昨今の分子標的薬は年間のコストが数百万円レベルですし、最近では1000万円を超えるような超高額の抗がん剤まで出てくるようになりました。

 

medicalinsight.hatenablog.com

   

 

Palbociclibの米国での薬価は、月額$9,850(約120万円)。1年間もし服薬を続けるとすると、$118,200(約1400万円!!)です。

 

乳がんの領域では、HER2陽性の進行・再発乳がん治療薬であるカドサイラについでの年間1000万円超えとなります。

 

そして、期待の免疫チェックポイント阻害剤を初めとした免疫療法剤も同様で、先述のニボルマブ

年間薬剤費が1500万円を超える超高額薬剤です。

 

医療保険のカバーが限定的な米国だと、「がん治療費で破産」ということも現実としてあり得ます。

日本でも、ここまで高額な薬剤費を厳しい保険財政の中で賄えるかとなると、大きな不安が残ります。

 

「Financial Toxicity(財務毒性)」という言葉まででてきているように、抗がん剤は本当にそれだけの「価値」があるかどうかが、今後厳しく問われる時代に入ってきたと言えましょう。

 

   

 

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第1位:世の中の「がん」への関心が一気に上昇

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その「異変」は9月24日に突然起きました。

 

それまで、400-500程度だった、乳がんの病院・名医ガイド「イシュラン」への1日あたりの訪問ユーザー数が、一気に1200を超えたのです。その次の日も1000を超える数。その後も多少減ったものの、「高原状態」が続いています。

 

同様の傾向は、私のブログへのアクセス数でも見られました。

 

原因は、北斗晶さん。

乳がんの罹患をブログ上で公表されたことが、翌日一気にニュースとしてかけめぐったのです。

 

ameblo.jp   

 

北斗さんのニュースは、その後の経過も含め繰り返しワイドショーや週刊誌で取り上げられ、その影響からか、秋口以降は乳がん検診の予約がどこも満杯という状況になりました。

 

www.j-cast.com

  

 

受診者の不利益も多い40歳未満の方にまでこの動きが広がったことは、マイナス面もあるのですが、それにしても国がやるどんな施策よりはるかに効果的に、検診に対する一般の方の意識・行動の変革を促した事件ではありました。

 

今年は、北斗さんの他にも、先述の女優の川島なお美さんや、胃がんで逝去された黒木奈々アナウンサーなど、働き盛りの年代の女性の患者さんが報道で大きく取り上げられる機会が多く、そうしたことが世の中全体のがんへの関心を高めた年でした。

 

がんという病は誰しもがなり得ること、そしてその病と共存している患者さんが必要とするサポートはどのようなものであるのかを、多くの方が認識・考慮するきっかけになったのだとしたら、ポジティブに捉えて良い「異変」だったのだと思います。

画期的抗がん治療「CAR-T細胞療法」が1回5000万円超だって???

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画期的抗がん治療「CAR-T細胞療法」解説します

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昨年来、当メルマガでは「ホンモノの免疫治療」である免疫チェックポイント阻害剤について、再三取り上げてきました。

 

本日は、もう一つの「ホンモノの免疫治療」である「CAR-T細胞療法」をご紹介します。

 

免疫チェックポイント阻害剤と共に、今後のがん治療を大きく変え得る治療法で、憶えておいて頂いて損はありません。

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「CAR-T細胞療法」、英語での正式名称は、”Chimeric Antigen Receptor (CAR) T-cell therapy”です。英語では単純に”CART”と省略されることが多いようです。

 

ちなみに、日本語で「CART 治療」で検索すると、難治性腹水症に対する腹水濾過濃縮再静注法(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)が出てきてしまいますが、まったくの別物で、ここでは混同を避けるために「CAR-T細胞療法」と記します。

 

さて、では「CAR-T細胞療法」ってなんじゃらほい、ということですが…

簡単に言えば、免疫細胞ががんを攻撃できるように人工的に改変してしまう治療法です。

 

免疫の機能が働く為には、免疫細胞(T細胞)が体内にある異物(=敵)を異物として認識する必要があります。異物である印を「抗原」と呼びます。抗原を認識できたら、T細胞はその抗原を目がけて特異的に攻撃します。

 

ところが、がん細胞は色々なシグナルを出して、T細胞ががん細胞を異物と認識するプロセスを邪魔することができ、T細胞の攻撃態勢が整わないようにしてしまいます。

 

そこで、T細胞を体外に取り出して、がん細胞の表面にある印(抗原)を認識できる受容体をT細胞の表面に人工的に発現させ、その”探知機付き”のT細胞を大量に増殖させてから体内に戻します。すると、体内でそのT細胞がさらに増殖した上で、標的であるがん細胞に対し攻撃を加える、というのがCAR-T細胞療法です。

 

敵(がん細胞)をロックオンした状態のミサイルを大量に製造して戦場に投入する、という戦略ですね。

 

今のところ、CD19とかCD22と呼ばれる抗原をターゲットとしたCAR-T細胞が有望と考えられているようで、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病悪性リンパ腫などを対象に海外で治験が進められています。

 

世界で最初にCAR-T細胞が作られたのは、イスラエルのWeizmann科学研究所で1980年代の末頃でした。でも、そのCAR-T細胞が実際にがん細胞を攻撃できるようなものにするまでに、20年以上の歳月が費やされてきたわけです。

 

一つの治療法が生まれるまで、かくも長くの年月と多くの研究者の”汗と知”が詰まっていることに、深い感慨を覚えます。

 

 

※CAR-T細胞療法は日本でも海外でも未承認の治療法です

 

※本稿の執筆にあたり、以下の2つの英文記事を参照しました。

・”CAR T-Cell Therapy: Engineering Patients’ Immune Cells to Treat Their Cancers” (National Cancer Institute)

  http://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/research/car-t-cells

 

・”The CAR T-Cell Race” (TheScientist)

  http://www.the-scientist.com/?articles.view/articleNo/42462/title/The-CAR-T-Cell-Race/

 

 

 

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画期的抗がん治療「CAR-T細胞療法」が1回5000万円超だって???

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さて、先日米国で開かれたASH(米国血液学会)で、前述の画期的なCAR-T細胞療法のPhase2の最新の治験結果が発表されました。

 

 ■”Novartis: Lymphoma study shows CART on track for 2017 U.S. submission” 「ノバルティス悪性リンパ腫CART治療、17年の承認申請に向けて順調」(Reuters)

  ow.ly/Vzqtt

 

対象となったのは、標準治療無効の進行悪性リンパ腫26例(びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫15例、濾胞性リンパ腫11例)です。

 

既存の標準治療が無効となった症例ですから、効果を期待できる治療法は既に無くなっている患者さんばかりです。

 

まず効果面の結果は、全奏効率(ORR、何らかのがんの縮小が画像上確認できた患者の割合)が、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫で47%、濾胞性リンパ腫で73%と、極めて良好なものでした。

 

また、安全性面はというと、いずれも程度がわからないのですが、4例でインフルエンザ様の炎症反応が見られたのと、2例で神経毒性反応が見られたということでした。

 

少数例ですし、治験の途中段階ですからまだ確定的なことは言えませんが、これを見る限りでは、安全性面でも従来の抗がん剤と比べたらだいぶましのようです。

 

CAR-T細胞療法を開発しているメーカーはノバルティス以外には、Juno Therapeutics や Kite Pharma といったバイオベンチャーがあり、2017年にはこれらの会社の製品の上市が見込まれます。

 

とここまでは良いのですが、問題がお値段です。

 

1回の治療が450,000ドルを予定されているというのです。いや、我が目を疑いましたよ。45万ドルってことは、5400万円ほどになります。

 

T細胞を取り出し、体外で改変・増殖させるという特殊なプロセスが入る細胞治療なので、原価が通常の薬物よりはるかに高くなることはわかるのですが、それでも5000万円を超えてしまうとなると、社会的に寛容できる価格を遥かに超えていると言わざるを得ません。

 

他のがん種にも応用が利きそうな有望な治療法なので、何とか普及に値する価格帯(せめて1000万円程度)になることを期待したいと思います。

 

 

※CAR-T細胞療法に関し、本稿執筆時点で筆者は特段のCOI(利益相反)はありません

 

 

本物の名医のあり方がわかる本:「医者と患者のコミュニケーション論」

「名医」の条件って何でしょう。

 

私自身は「腕(手術手技や的確な投薬などの医療技術)の良さ」×「コミュニケーション・スキル」のかけ算で決まると考えています。

 

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イシュランのサイトの中で、専門医資格の情報は前者の「腕の良さ」の指標になります。後者の「コミュニケーション・スキル」については、客観的な指標はまったく存在しないため、患者さんの投票によるコミュニケーション・タイプや体験談(口コミ)などの情報を掲載することでカバーしています。

 

では、医師はどうやってコミュニケーション・スキルを磨くのか、という点で、非常に示唆に富んだ書籍が出てきました。

 

 ■「医者と患者のコミュニケーション論」(里見清一)

 

「里見先生」という名前を見て、何かピンと来ませんか?

そう、あのドラマ「白い巨塔」で財前教授と並ぶもう一人の主役が里見先生でした。

 

ペンネーム「里見清一」、本名は「國頭英夫」先生。実は、「白い巨塔」の医学監修を担われた先生で、肺がん領域では著名な先生です。

 

その里見先生が、「研修医向けの講義」形式で書き下ろしたのが本著です。

 

私が思わず膝を打ったのは、以下のくだり。

 

>>

・・・当たり前のように、「あなたは手術不能の肺癌で、余命は1年程度と推定されます」という宣告がなされる。私なぞがそれに眉を顰めると、君らは意外な顔をしてこう言うのだろう。「だって先生、以前から癌の告知をやってたんでしょ?患者に事実を知らせるためなんでしょ?僕も本当のことを言っただけです。何が悪いんですか?」

 そういう君達にはこの言葉を紹介しよう。「誹謗中傷よりも酷いことが一つある。それは真実だ」

>>

 

同じ「真実(本当のこと)」を伝えるにしても、「誰が」「どう」伝えるかで患者さんの受け取り方は180度変わってくることを、見事に書き著しています。

 

他にも、たとえ科学的には意味がなくても「触診」をすることで患者さんと医師との距離はぐっと縮まるという話や、たとえこれ以上の治療の手だてがなくなったとしても、”You are still my patient and I am still your doctor”ということを患者に伝えなければならないという話など、「べらんめえ調」の中に「いい話」がここかしこにちりばめられています。

 

特に、今まで主治医とのやり取りで嫌な思いをしたり悩まれたりしてきた患者さんやご家族にお薦め致します。

 

2015-16シーズンはマイコプラズマ肺炎の当たり年?

11月初めにマイコプラズマ肺炎に罹ってしまい、1週間以上東京の拠点に籠りきりの生活をおくっていました。

 

マイコプラズマ肺炎というのは、肺炎マイコプラズマ菌によって惹き起こされる感染症で、本物の「肺炎」とは原因菌が異なります。

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症状としては、

 

「初発症状は発熱、全身倦怠、頭痛などである。咳は初発症状出現後3~5日から始まることが多く、当初は乾性の咳であるが、経過に従い咳は徐々に強くなり、解熱後も長く続く(3~4週間)」

 

「鼻炎症状は本疾患では典型的ではないが、幼児ではより頻繁に見られる。嗄声、耳痛、咽頭痛、消化器症状、そして胸痛は約25%で見られ、また、皮疹は報告により差があるが6~17%である。」

(いずれも、国立感染症研究所HPより)

 

ということなのですが、私も耳痛以外はすべてありました。特に咳はきつかったです。

 

「皮疹」とありますが、確かに本格的に発熱・咳の症状が出る1週間ほど前に手足にブツブツが出てきて、皮膚科を受診していたんですよね。

 

皮膚科ではその時、「虫刺されか、手足口病か、何ともわからない湿疹ですね。まあいずれにしても治療はステロイドになりますが」と言われていたのですが、おそらくマイコプラズマ肺炎の前触れの症状として出ていたのではないかなと、推察しています。

 

さて、このマイコプラズマ肺炎、昔は「オリンピック病」と呼ばれ、オリンピック開催年に流行を繰り返していた時期があるようですが、最近の流行は2011年・2012年の2年間でした。

 

それが、今年はまた流行り始めているようなのです。 

 ■「マイコプラズマ肺炎、全国で増加傾向- 感染研報告、前週比23%増」(CBNews)

   

東京都の流行状況の推移を見てみても、「当たり年」と言われた2011年・2012年と似たようなレベルまで上昇中。

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確かに、今年は周囲に「しつこい風邪が治らなくて困っている」という声がチラホラ。いや、それってマイコプラズマ肺炎かもよ、、、と突っ込みをいれたくなるような人もいます。

 

いずれにせよ、心当たりのある症状が出た方は、風邪だとタカをくくらないで医療機関を受診されてください。

 

診断は、喉の奥を拭っての簡易迅速検査がありますので、比較的簡単につきますし、治療もマクロライド系などの特定の種類の抗生剤が中心、とはっきりしていますので。

ベーコン・ソーセージは御法度なのか?〜WHOの衝撃的(?)な発表〜

加工肉を食べるとがんの発症リスクが高まるというニュースが、10月26日の晩から27日の朝にかけて、世界を駆け巡り、日本でも大きく取り上げられました。

 ■「加工肉摂取に『がんリスク』=毎日50グラムで18%増―WHO」時事通信

   

WHOという権威ある機関の発表のためか、国内外のニュース番組や新聞記事でも大騒ぎになっています。

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しかし、加工肉や赤身の肉が大腸がんの発症リスクを上げるという話は、過去の数々の研究で指摘されており、今回のWHOの発表はこれらの研究の成果を吟味しただけの話で、何か新しいデータが出てきたわけではありません。

 

過去の研究のまとめとして、例えば2008年時点で既に↓のようなものが出ています。

 ■”Processed meat and colorectal cancer: a review of epidemiologic and experimental evidence”「加工肉と大腸がん:疫学的・実験的エビデンスのレビュー」NCBI

   

この論文では、それまでに為された数々の研究の「レビューのレビュー」をしています。具体的には以下の3つの過去の研究をさらにまとめています。

 

・13本のコホート研究をまとめた2001年のSabdhuらのメタアナリシス(統合分析)

・18本の症例対象研究と6本のコホート研究をまとめた2002年のNoratらのメタアナリシス

・18本の前向き研究をまとめた2006年のLarssonらのメタアナリシス

 

相当のエビデンス量をカバーしているので、かなり信頼の置ける分析と言えましょう。

 

細かい点は省きますが、この2008年の時点で、

 

・加工肉の多食者は非摂取者と比べ、20-50%の範囲で大腸がんの罹患リスクが高い

・摂取グラム当たりのリスク増は、赤身の肉より加工肉の方が高い

 

ということが結論付けられています。

 

今回のWHOの発表は、そういう意味では目新しいものではないのですが、これだけ大きく取り上げられると、一般の方にとっては初めて耳にする話という方も多いかもしれませんね。

 

でどうするかという話ですが、個人的には摂りすぎないようにさえすれば、時々食べるのは別に良いのではと思っています。

 

煙草と違って他人に迷惑をかけるものでもありませんし、ソーセージエッグやアスパラベーコン巻きとか、やっぱり美味しいですからねえ…

 

がん診断後のアスピリン服用が消化器がん患者の生存期間を延長か

先回のメルマガで、「大腸がんの予防としてアスピリンの長期服薬が米国で推奨」というお話を紹介しましたが、今回もまたアスピリンの話です。 

 ■”Post diagnosis aspirin improves survival in all gastrointestinal cancers”「がん診断後のアスピリン服用が消化器がん患者の生存期間を延長」(The European CanCer Organisation (ECCO))

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オランダのFrouws医学博士らは、1998年から2011年の間の消化器がん患者14000名近くのデータを解析。

 

そのうち、30.5%ががん罹患以前からのアスピリン服用者、8.3%が罹患後のみのアスピリン服用者、61.1%が非服用者でした。

 

全体としての5年生存率は28%でしたが、性別、年齢、進行度、治療法などの条件を調整し、上記それぞれの群を比較してみたところ、、、

 

罹患後のアスピリン服用者は非服用者と比べ、生存率が「2倍」という結果が出ました。

 

今回のものは「後ろ向き」研究ですが、現在、オランダではアスピリン服用者とプラセボ服用者を比較する前向き試験が大腸がんで進行中で、さらに消化器がん全般で行なうことを考えているようです。

 

ちなみに、なぜアスピリンががんに効果があるのかについては、以下の仮説があるようです。

 

「血中循環腫瘍細胞(CTC)」と呼ばれる、原発巣から他臓器に転移する際に血中を移行するがん細胞があります。

 

このCTCは、血小板に身を包まれた形で血中を移動することで免疫システムの攻撃から逃れているのが、アスピリンにより血小板が溶かされて身が露出してしまって、免疫により排除されているのではないか、というものです。

 

現状はまだ仮説段階ですが、前述の前向き試験の結果が出てきたら、本当に効果があるかどうか決着がつくかと思います。

 

いずれにせよ、非常に安価かつそこまで副作用が厳しくない薬剤で一定の効果が期待できるのであれば、結果を待たずに試す医療機関も出てくるかもしれませんね。

大腸がんの予防としてアスピリンの長期服薬が米国で推奨

これまた古いお薬の話です。

 

鎮痛・解熱剤として一般に知られているアスピリンですが、血液を固まりにくくする働きもあるため、医療用医薬品としては、血栓や塞栓の治療にも広く用いられます。

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そのアスピリンを、米国疾病予防タスクフォースが、米国の主要な医学団体として初めてがんの予防薬としてガイドライン上で推奨しました。

 ■”In a First, Aspirin Is Recommended to Fight a Form of Cancer”「アスピリンが初めてがんに対抗する薬として推奨」(The New York Times

  

 

同タスクフォースが過去のエビデンスを解析した結果、低用量アスピリンを長期服用することが、心臓発作の発症リスクを22%下げるだけでなく、大腸がんによる死亡リスクも33%下げることがわかりました。

 

ちなみに、日本でもアスピリンの大腸がん発症予防効果についての研究がされています。

 

www.ncc.go.jp

国立がん研究センター

   

 

本研究では、大腸がんへ進行する可能性の高い大腸ポリープを切除した患者に低用量アスピリンを2年間投与、311名による無作為化比較試験で再発リスクを検証したところ、40%程度抑制する結果が得られました。

 

とはいえ、現時点では日本ではアスピリンによる大腸がんの予防投与が推奨されているわけではありませんし、保険適応もされていません。

 

また、米国の専門家たちも、本件については実はまだ意見が分かれているようです。

 

懸念の一つは、アスピリンの長期服用は、もちろんのことながらリスクフリーというわけではなく、胃出血のリスクは確実に上がり、非常にまれではありますが脳出血のリスクも上がることです。

 

もう一つは、アスピリンを服用することで安心してしまって、大腸内視鏡検査を受けない人が増えてしまうと、早期発見の機会を失って死亡リスクが上がってしまうというものです。

 

私は母方の祖父母ともに大腸がんに罹患しており、家系的にはリスクが高いのですが、それでも胃がすぐに荒れるアスピリンを毎日服用するのはちょっと躊躇いますね…